第八章 円満カイケツ

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──そして変化は直ぐに表れた。 翌日の昼休憩時、庶務課から社食へ向かって恭輔と歩いていると前方からやって来た一橋さんと目が合った。 「さ、佐東さん……と」 一橋さんは私の隣にいる恭輔に目を留めとても気まずい表情をした。 「こんにちは、一橋くん」 「!」 先に声を掛けたのは恭輔だった。それを受けて一橋さんは面白いようにビクッと体を硬直させた。 「一橋くんも今からお昼?」 「あ……あぁ……」 「そっか、僕たちもなんですよ。あ、よかったら一緒に食べませんか?」 「っ! い、いや、きょ、今日は……他と食べる約束、しているから」 「そうなんですか。じゃあまたの機会に」 「あ、あぁ……そう、だな。じゃ、じゃあ」 そう言い残して一橋さんはそそくさと社食内へと消えて行った。 「ふふっ。伯父さん、どんな風に躾けたのかなぁ」 「……九重くん、悪い顔になっているわよ」 「おっと、失礼しました。僕たちも行きましょうか、佐東さん」 一橋さんと恭輔の会話を訊いていた私はやっぱりふたりの間においても恭輔の方が立場が上だと感じた。 (見た目ではまるっきり一橋さんの方が優勢って感じなんだけれど) そのギャップも恭輔の魅力のひとつだと思った。 「どうしました、佐東さん」 「ううん、なんでもない」 「そうですか。あ、今日はAランチがお得そうですよ」 「本当だ。でもちょっと量が多いかな。食べきれないかも」 「残ったら僕が食べてあげますよ」 「え」 (なんだか恭輔、少し雰囲気変わった?) 相変わらず公の場では他人行儀なやり取りをしているけれど、恭輔の言葉の端々に今までとは違った色が見えるようになった。
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