411人が本棚に入れています
本棚に追加
当然ながら『もう……此処から出たくない』なんて言って本当に出ないなんてことは出来ないのが現実世界。
「──は? 今……なんて」
「だから僕たち、結婚します」
「……へ」
お盆休み明け、恭輔とふたりで課長に結婚報告をした。その瞬間、庶務課は悲鳴にも似た雄叫びが上った。
「はぁぁぁ?! 佐東ちゃんと九重くんが結婚?!」
「え、佐東さん、彼氏がいたんじゃ」
「その彼氏っていうのが実は九重くんだったってことかい?!」
みんなの驚きの言葉を背に受け、未だ固まってしまっている課長に続けた。
「それで私、結婚を機に退職します」
「え、辞めちゃうの?」
「はい。専業主婦になります」
「えぇ……ちょっと待って。大丈夫かい? 九重くんだって入社してまだ半年だしお給料がそんなにある訳でもないし……九重くんの稼ぎだけで奥さんを養って行けるのかい?」
「その点のご心配は要りません。夫婦ふたりやって行くのに困らないようにきちんと考えていますから」
「……まぁ君たちがそういうなら部外者のボクがとやかく言うことじゃないんだろうけど……」
「課長、心配してくださってありがとうございます」
「……佐東さん」
「私、この課が大好きでした。今まで本当にありがとうございました」
「っ! ちょっと、今すぐ辞めるって訳じゃないのにそういうこと言わないの!」
薄っすらと涙を浮かべた課長の優しい怒号が広がって、その日は大変な騒ぎとなった庶務課だった。
最初のコメントを投稿しよう!