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「杏奈、君の夫は隠れた有名人だよ。決して表には出ないけれどその世界では売れっ子の男優だ。そんな俺をひとり占めする権利があるのは妻である君だけなんだよ」
「有名人……」
「そう。世間でもてはやされている俳優の妻だって自分の夫のキスシーンなんて観たくないだろう。でも本当の夫の素顔を知っているのは妻だけだ。何も哀しむことはないよ。本当の俺は杏奈だけのものなんだから」
「……恭輔」
そう、芸能人と結婚したと思えばいいのだと割り切ると鬱々とした気持ちが晴れて行った。
DVDを買った人はどんなに画面上の恭輔に溺れたって本物の恭輔は手に入らないのだから。それを独占出来るのは妻である私だけ。その自尊心が私の心を平穏へと導いてくれた。
九重杏奈になってからまだ一か月ちょっと。結婚してからも相変わらずところ構わず求められることに戸惑いつつも至福を感じている。
まだ新婚さんと呼ばれる蜜月だけれど体の関係だけでいうともはや熟練の夫婦並みで新鮮さの欠片もない。だけどそれに対して不平不満なんて一ミリも湧かなかった。
傍から見れば呆れるほどの溺愛夫婦の私たちだけれど、これが私たちにとっての幸せの形なのだった──。
Wonderful Encounter(終)
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