第六章 カレシの実家

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振り向くと其処にはいつか話したことがある経理課の一橋さんがいた。 「なんでしょう」 「あの、今夜お時間空いていますか?」 「え?」 「よかったら食事に行きませんか」 「……」 (はぁ……またか) この手の誘いは今までにも何十回と受けて来たからもはや驚くとか戸惑うとかという気持ちにはならなかった。 「お誘いありがとうございます。でも今日は用事がありますから」 「じゃあ明日は?」 「明日も予定があります」 「じゃあ明後日」 「……あの」 いい加減ダラダラと食い下がる一橋さんにイラッとした。 「いつなら食事に行ってくれますか」 「行きません」 「何でですか」 「なんでって、行きたくないからです」 「どうして」 「はぁ? どうしてって」 (なんなの、この人) 子どもみたいなやり取りにどうしたものかと思っていると「佐東さん」と恭輔が呼んだ。 (恭輔、いいところに来てくれた!) 「課長が呼んでいますよ。午後一で頼みたいことがあるとかで」 「そうですか。では失礼します」 「あっ、待って、佐東さん」 まだ食い下がろうとする一橋さんを振り切って、迎えに来てくれた恭輔と共にその場から離れた。
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