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「──ふっ……僕が紳士だったことに感謝してください。この腕を好きな人に振り下ろすなんて愚行、する訳がない」
「……」
なんだか自己陶酔している様子で徐に腕を下ろした一橋さんを視線を逸らさずに見つめた。
「……はぁ……そうですか。ここまで譲歩してもあなたは僕を受け入れないという訳ですか」
「えぇ、お断りします」
「~~~分かりました。それなら僕にも考えがあります。あなた自ら僕の腕の中に飛び込んで来るように仕向けることにします」
「……」
「そして九重にはそのための生贄になってもらいます」
「……」
「では、失礼」
端正な顔を歪めながら一橋さんは屋上から出て行った。
「……ふぅ」
誰もいなくなった屋上で小さくため息をひとつつきながらスカートのポケットの中に入れていたボイスレコーダーのスイッチを切った。
昼休憩が終わりデスクに戻った私は隣の恭輔にプリントを差し出した。
「九重くん、頼まれていたコピーしておきました」
「ありがとうございます、佐東さん」
「どういたしまして」
そのプリントの下には恭輔から預かっていたボイスレコーダーが隠されていた。
プリントごとボイスレコーダーを手にすると恭輔は器用な手つきでそれをスーツのポケットに仕舞った。
(あれ、どうするのかな)
一橋さんを呼び出し交際の断りをする一部始終を録音して欲しいと言って恭輔からボイスレコーダーを預かった。言う通りにして一橋さんとの会話を録音したのだけれど……
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