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其れから、あの男達は少しして戻って来ては、此処にいる仔猫達と戯れ始めたけど…
戯れてるのは飼い主と思われる男だけ、片方の男は只じっと獲物を観察してる鷹のように見つめてくるから怖かった。
その間、私は…ひたすらママ猫と一緒に日向ぼっこをしていたんだ。
「( 社畜にさせる社長に愛想振りまく気はない。私は優しい人の元に行くのだ )」
「 水無瀬さん、少しは触りませんか? 」
「 必要無い 」
「 優しく触ったら大丈夫ですよ… 」
「 ………… 」
永縁と此処で寝て、ネコ特有のニート生活満喫したいと思って、図々しくも身体を伸ばして寝ていれば、あの眠りを妨げる飼い主は私をまた抱き上げた。
「 ミィー……( いやー……眠いのに… )」
「 ほら、どうぞ。急に騒がないでくださいね 」
「 !? 」
其れも、顔が怖い男が胡座を組んでるのを良い事に、腹側の服を少し引っ張ってその上に乗せたじゃないか。
「 ほら、よしよししてあげてください 」
「 無理だ…退かしてくれ…… 」
「 大丈夫ですって 」
「( あ、でも…なんか、…良い匂いする… )」
服から香る爽やかで甘い柔軟剤が少し心地良く、逃げたところですぐに掴まえられるのは目に見えてる為に、動くのを止めて、其の場で服に顔を埋めたまま眠りにつく。
「 こいつ…なにか、してやがる… 」
「 ふみふみですよ、ニーディングとも呼ばれてますね 」
「 如何したらいいんだ……」
「 そのままじっとしてくててください。珈琲の用意致しますね。無糖でよろしいですよね? 」
「 嗚呼… 」
温もりやいい匂いに包まれて、考え過ぎて頭がパンクしそうだった脳を休ませるついでに、其の場で爆睡していた。
時々熱くなって寝返り打ったり、伸び切っていても、男は3時間近く全く動かなかったらしい…。
脚が痺れるだろうとか、そんな事すら気にしなくていいのはネコの特権だろう…。
「( ちぱち……… )」
なんて、幸せなのだろうか…。
「( 服にヨダレが……… )」
「 珈琲どうぞ。ネコってかわいいでしょ? 」
「 全く…… 」
________
___________
〜 水無瀬 視点 〜
実業家の父の元で、二人兄弟の次男として生まれた。
当たり前のように長男が会社を引き継ぐ事が決まっていた為に、父は好きな事をしろと吐き捨てて、俺自身に興味を示すことは無かった。
専業主婦の母親は趣味でピアノ教室と英語教室を開いていた為に、子供と遊ぶ時間よりそっちを優先する人だったな。
その為。AI知能を持つアンドロイドの家政婦が家のことをするだけで…
俺は、余り両親と関わりが無かった。
優秀で賢い兄と運動神経だけはいい頭の悪い俺とでは、親から向けられる評価も変わって来ていた為に、両親が居ても幸せか如何かも微妙だった。
其れでも貧乏人よりはマシだと思い、16歳の時に自分自身でデザインした靴のメーカーを設立し、会社がでかくなってからいくつかのAI技術や車も扱うようになり、
自分の経験を活かして作ったものが評価され、
今では、父の会社を抜き大手となっている。
2年前から、殆どの会社を雇った者達に任せ、自身は売り上げの一部が勝手に通帳に入る為に、それを使って適当に生活するぐらい。
偶に外国で新しい店をオープンさせる奴等や他の企業と連携を取るために会議に参加するだけで、俺が家から離れることは希になった。
最初はでかい豪邸に暮らしていたが、動くのが面倒なのと、その広さがあっても招く奴が少ない為に意味無いと判断し、客が来る時以外は使わず、
別の小さめの家で暮らすようになった。
食事して、寝て、会議する程度なら小さくていいと思って愛用してるのだが、どうも一人で暮らすにはつまらない。
花粉症持ちの俺が、態々植物の世話をする気にもなれず、
唯一アクアリウムを兼ねて熱帯魚を飼い始めたが、それも水槽リース業者が定期的に見に来て管理してる程度。
只小魚を眺めてるだけの生活も飽きて、幹部達が集まる食事会で聞いてみた。
「 癒しが欲しい。面倒なのじゃないのがいい。後…長い目を見て遊べるなら尚の事 」
「 ハムスターとかどうですか?可愛いですよ 」
「 夜が五月蝿い、後短命じゃないか。却下 」
「 じゃ、鳥は…だめかぁ… 」
「 犬とかは!?一緒に出掛けれますし! 」
「 時間事の散歩が面倒だ。却下 」
何故、癒やしと言って命ある生き物を進めてくる、こいつ等の思考が分からない。
その時はそれで話が終わっていたのだが、
1ヶ月程した頃に、本社の方で経理部の部長をしてる、関屋が、態々自宅の方にやって来た。
「 休みの朝っぱらから何だ…。急用か? 」
「 子猫見に来てください!産まれたんです!実家で両親がブリーダーしてるんですけど、雌猫が脱走して、別の部屋にいる雄猫と交尾しちゃったらしく…予定じゃない子が産まれて、少し困ってるみたいなので、社長に見せたいなって! 」
「 は? 」
急に何を言い出すのかと思い疑問を抱くも、半ば強引に連れ出された為に、仕方なく着いていくことになった。
車の中で細かい経由を話されたが、その大半が猫がどれだけ可愛いか、と言う内容だった。
「 俺はメリットより、デメリットの方が知りたいんだが 」
「 あー、病院連れて行かなきゃいけないとか、家具に爪とぎしちゃう子もかいたり、後は… 」
デメリットを聞くんじゃなかったと思うぐらいの内容に、溜息を付くも関屋は笑った。
「 其れを全部含めて、ネコは可愛いですから。ほんと癒やしです、俺も家に50歳になる引退猫が1匹いるんですけど、其れでも滅茶苦茶可愛いので 」
「 何年生きるんだ? 」
「 55歳から70歳ですね。でも、ウチの子はまだまだ元気なので…もっと長生きするかな。飲みのんだ毛玉が徐々に溜まる… 毛球症とかに気をつけて上げたらいいですよ 」
「 ……生き物を飼ったことが無いからな…魚ぐらいだ 」
「 大丈夫ですよ。最初は、誰でも初心者なので手探りです。そこから色々知っていくもんですよ 」
そう言った関屋の言葉に、視線を窓の外へと向け、溜息を一つついた。
「( そういう問題じゃないだろ…。生き物なんだ…。俺の不注意で死んだらどうする… )」
喧嘩で魚が死ぬだけで、その種類の魚はもう入れなくていいと言うぐらいなのに…。
ネコのように存在感があるものが死ぬのは見たくはない。
「( そう考えていたのにな……。なんだ、この子猫は…… )」
人間を嫌ってる様子だったはずの子猫は、我が物顔で、膝の上を陣取っていた。
「 可愛いでしょ?ほら、 」
関屋が見せるように人差し指でそっと子猫の頭をなぞるように触れ、
次に俺にさせようとばかりに手を引く為に、力を込めるも…
僅かに動けば、子猫の耳も動く為に身体は硬直する。
「 全く…触れるまで、帰しませんからね 」
「 は? 」
…あんまりだろ…。
生き物に触れたことない奴に、触れと言うなんて…。
「( 触って壊れてしまったらどうするんだ…こんなに小さいのに… )」
俺の片手ほども無い子猫の扱い方など分かるわけもない。
只眺めながら、出された珈琲を時折飲んでは、子猫が退くのをひたすら待った。
「 こいつはスライムか… 」
「 バンザイして、のびーってしてますね。可愛い 」
膝から落ちそうな子猫の下に、近くにあった毛布を畳んで挟んで頭を打つのを防げば、子猫は延びきったまままた一時眠っていた。
昼頃に来たはずなのに、15時を過ぎていたんだ。
「 ご飯の時間だよ、起きてねー 」
「 ミィー!! 」
「 ミィッ……?( ごは、ん……? )」
「( やっと退いてくれた……くそ、脚が痺れた…… )」
子猫は寝返りを打っていていいだろうが、俺は全く動けなかった。
「 送らなくて大丈夫なんですか? 」
「 此処まで往復で12時間は掛かるだろ。必要ない 」
「 ははっ、気遣いありがとうございます。それでは、お気をつけてお帰り下さい( 6時間掛かったのに来てくれたんだよなぁー )」
何か言いたそうな関屋だが、本社と敢えて離れた場所に暮らしてるのだから、仕方ないだろう。
「 あ、子猫は3ヶ月迄里親には出さないので、後2ヶ月ぐらい考えてくださいな 」
「 ………俺は飼わない。いい家族が見つかればいいな、それじゃ…お疲れ 」
「 ……はい、ありがとうございます。お疲れ様です 」
自家用車でもあった為に、帰りは自動運転機能を使用し帰った。
「( 猫なんて飼ったところで…死んだ時が辛いだろ…… )」
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