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〜 想羅視点 〜
人間と言うのは、なんて面倒な生き物なのだろうか。
長生きさせるには繁殖しかないから、
長生きさせたい、
でも知らないオスとは繁殖させたくない、
けれどいつかは子猫は欲しい。
「( 特に…水無瀬様は面倒ですね )」
矛盾だらけで、結論に至る迄が長過ぎる。
「 素直に言ったら如何ですか。娘なんて言って、パパと呼ばせてるから面倒になってるのでしょう 」
「 ……面倒とは思っていないさ。それに俺は、ラナを娘として可愛がっている 」
「( それを矛盾してるというのでは無いですか… )」
溜息すら付く必要も無い程に呆れる回答だ。
ラナが本当に困ってる理由など、知らないのでしょう。
「( 彼女が言わないのなら、私から言う必要もありませんが… )」
ソファの上で眠ってる子供を見て、そっと頭を撫でる。
いつ頃だろうか…。
彼女に前世の記憶が残ってる…と察したのは。
子供っぽくない思考か、それとも猫らしく振る舞おうとしてる仕草なのか。
あの日の問いかけか…。
きっとそれ等を感じ始めて、いつの間にか推測が確定となっていた。
前世の記憶が邪魔をし、
今の身体をどうしたらいいのか…
そう悩んでるように思えるのだと知ってから、出来るだけ言葉に耳を傾けて聞いていたけれど…。
ロボットである私には、理解は出来ても共感は出来なかった。
繁殖をするわけでも、寿命が来るわけでもない。
壊れても、常に別の場所にあるデータへと記憶と情報が共有されアップデートを繰り返してるのだから、この身体で無くなっても…。
私は私のまま…変わらない。
「 可愛がってるだけでは、゙愛情゙と言うのは足りないのでは。言葉で伝える事も大切ですよ 」
「 俺に…言えと?そんな恥ずかしい台詞を 」
「 恥じらいを持つなら、まだ本心では無いと言う事ですね。ラナはきっと…それを聞くだけで心は決まるでしょうに 」
起こさないようそっと抱き上げては、背中側から後頭部を支え、少し困惑してるような水無瀬様の表情を見下げる。
「 駄目だ…。此奴の未来を奪いたくはない。俺の好意など傲慢に過ぎない… 」
「 よく理解してるようでなによりです…。部屋にお連れします。どうぞ、お仕事の続きを 」
静かにその場を去ろうとすれば、背後で水無瀬様は口を開く。
「 御前は…ラナを、どう思っているんだ 」
「 可笑しな質問ですね。まるで私に心があるような言い方じゃないですか 」
「 少しはあるだろう 」
「 ありませんよ。妹の様に接してやれと言われた、ネコのクティノスです。それ以上、それ以下でもございません 」
私にとって、ネコ科のクティノスでしか無い。
それ以前に、主人が連れてきたネコであり、世話をしろと命令をされて、そうしてるだけ。
其処に人間らしい感情はないからこそ、ラナは私に身を委ねるんだ。
リビングを離れ、2階の部屋の方へと行き、
彼女のベッドへと寝かせれば、獣の耳は小さく動き長い睫毛は揺れた。
「 んっ…… 」
「 すみません、起こしてしまいましたか 」
色白で柔らかい頬に指を滑らせ問い掛ければ、美しい海の様な瞳は眠そうに私へと視線を向けては、犬歯が見える程に大きく欠伸を漏らした。
「 ふにぁ〜〜。んん……平気 」
「 そうですか。では、もう少し眠っていていいですよ 」
髪を枕に擦っては首を振ったラナは、小さな両手を向けては、頬へと触れてきた。
「 ふふ…。クウ……さわりたいって顔してる… 」
「 私が…ですか?そんな顔してませんよ 」
急に理解出来ない事を言うと思い、思考が一瞬停止する。
触りたいって顔は…どんな顔なのだろうか。
今は女性の姿、醜い欲に飢えた男のような顔をしてないはず。
寧ろ、ロボットである私に…
そんな表情や感情すらないはずなのに…。
「 してる…チューしたいって、顔に書いてある。する?初めてはパパに上げたし…クウならいいよ 」
「 理解出来ませんね…。私はロボットです、そんな欲……! 」
まだ幼い子供だと分かっていても…。
その行動は偶に、女性らしい。
よく喋る口を塞ぐ様に触れる程度に重なった唇に気付けば、胸の奥がざわつく。
「( 私が触れたい?何故… )」
撫でる事はしても、それ以上を求める事はないはずなのに…。
一度、触れた唇の感触を確かめるように何度も重なり合わせては、柔らかい唇を堪能するように含んだり、舌先で舐めていた。
密かに感じる甘い吐息や首に回した腕に力が入る事すら分かる。
「 ふっ、ん…… 」
「( 触れたい…と、何故…思うのでしょうか… )」
妹…のように接してやれ、と言われる度に…。
心臓の部分が痛むような感覚がするのは、
何故だろうか…。
「 は、ぅ、ン…… 」
僅かに開いた唇から、舌先が向けられれば
それに自らの舌先を当て、擦り合わせる。
彼女の呼吸に気をつけて、何度か重ねていれば、小さな手は頭部を撫でて来た為に舌を解く。
銀の糸が繋がり、それがプツリと切れれば彼女は照れたように笑って、鎖骨の辺りへと擦り付いてきた。
「 ふふ……。クウ…エッチだね、こんなちしき…あったなんて… 」
「 ありませんよ…。只自然と動いただけです……。でも、いいのですか…。私なんかと…キスをしても 」
只の陸海空兼用執事型ロボットがこんな事を知る訳が無い。
そういった専門に造られてはいないのだから…。
なのに何故、彼女に触れたいと思うのだろうか…。
「 別にいいよ…。私は、そのうち…知らないオス猫の子を産むし…それがなければひにんして、ネコとしてすごすんだから…。こういった事にきょーみない… 」
「( あぁ、水無瀬様…。こんな事を…ラナ様に言わせてしまってるのですね… )そんな事…ありませんよ…。いつかきっと心から思う相手が出来ますよ 」
ロボットである私が言ってもなんの説得力にも無いけれど、
私で満たそうとするのは間違っていますよ。
それだけは分かります…。
「 できないよ…。私、男の人がこんぽんてきに、にがてだし、きらいだから… 」
「 だから…女の姿である…私は平気なのですね 」
「 たぶん、そう……。だからクウはいいの 」
「( 前世に、男性に対して酷い記憶やトラウマをお持ちなのですね…。それなのに繁殖や子孫の事を考えないといけないのは辛いかもしれませんね…これも推測でしかありませんが… )」
腕を離し、横向きになった彼女の頭部に触れては米神辺りへと口付けを落とし、そっと向き合うように横たわる。
「( 彼女に必要なのは…身体の癒やしではなく…共感者なのでは… )」
何も知らないこの世界で、
突然とネコとして過ごす必要があると言われ…
一人、孤独なのでしょう。
「 水無瀬様には言いませんから…辛い事があれば、胸を貸しますので…話してもいいですし、好きなだけ泣いてください 」
「 っ、ごめんね…クウ…。もう…ほとんど、なにも、おぼえてないのに…。オスは…いやって…キョゼツしてる… 」
「 嫌なら嫌とハッキリ言ってもいいんです。無理することは…ありません 」
胸元へと顔を埋めて涙を流す彼女をそっと抱き締めては、頭部を撫でながら髪へと頬を擦り当てる。
小さな身体が震えても、私は何も出来ない。
「( 人の心と言うのは…難しいですね… )」
自分の心に芽生えかけた感情を摘み取って…。
今は、彼女の相談相手であり、理解者であろうと思った。
相手が求める返事を返す事は、
ロボットである私には容易いことですから…。
「 ん…、クウ…ありがとね…。だいすき… 」
「 えぇ、私も…ラナが好きですよ 」
心無い言葉を欲しがるなら、
幾らでも言いましょう。
「 ふふっ……、うれしい…ありがと 」
「 それはなによりです… 」
私はロボット。
求められた事をこなす為だけに
作られたドール。
それ以外の価値など無いのです。
人間の心など理解しようと思う時間など、
無駄な事でしょう。
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