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02 新しい飼い主
あの若い男性は飼い主ではなく、夫婦の息子さんだったらしく、この家では暮らしてなかった。
その代わり60代手前の夫婦とその娘さん夫婦が、猫の世話を全てしてるらしく、
私はここで、5人の人間に囲まれて生活していた。
ネコの視力が悪すぎて、余り顔で認識出来なかった為に、匂いと音を頼りに覚えていけば、その人達以外の人間も定期的にやって来た。
「 この子、毛がかわいい!でも…ぜんぜん…かわいくない… 」
「 この子ね、ちょっと人見知りあるのよ 」
「( 子供は嫌だ。扱いが雑だし… )」
此処は、小規模ながらブリーダーの家。
子猫や少し大きくなった子を求めに、飼い主候補として人の出入りがある。
其れはなんとなく察した為に、自分の気に入らない人間には近寄らない、じっとしない、逃げるを繰り返した。
「( これも全て、優しい金持ちの家に引き取られるためさ!目指せ!ネコニート生活! )」
此処は人が多いから騒がしいし、小さい子供のいる家庭も嫌だから、静かな場所がいい。
夫婦とかカップルとかは、痴話喧嘩とか聞きなくないから、却下。
と言うか、そういう人達は決まって好みのネコが一致しなかったりする為に、話し合いを聞くのすら嫌になってくる。
ペットショップはその種類が1匹、2匹いるだけ。
消去法の中から選ぶのだから、運命的な出会いをすると勘違いしてる者は多いかも知れないが、結局ブリーダーの元に来れば選り取り緑。
ネコになった事を謳歌しつつ、飼い主を探してる時でも、他の雌猫から私より小さい子は産まれて、そっちに目移りする者もいた。
生後3ヶ月を目安に、1匹、また1匹と引き取られていく。
「 青ちゃん残っちゃったね 」
「( 繁殖猫にはなりたくないから、いい人がいたら媚び売るよ )」
青ちゃん。
青色のミサンガの首輪を着けられてるから、その渾名だけど、返事をしたら名前が固定にされそうになるから、敢えて無視をする。
ちっちゃな手を使って、覚えたての毛繕いをしていれば、夫婦のママさんはそっと頭から背中を撫でてきた。
「 私達には平気なのに…、他人はだめなんて…勿体無いわ 」
「 祐介のやつが、会社のやつがなんちゃらとか言ってたぞ 」
「 おや?決まってるの?それは良かったわ 」
優しいおじさんがやって来て話をしてるのを聞けば、私の耳は動いて顔は上がる。
「( 知らない人に引き取られるってこと!?一番嫌なパターン来た… )」
うえっ…と耳を下げていれば、ママさんはそっと抱き上げて、優しく腕の中で包み込んできた。
「 良かったね、青ちゃん。いい人が居るみたいね 」
「( さようなら…。私の理想のネコ生…此処にいるだけでも謳歌しよう )」
生きるのが辛そうな野良猫だけにはなりたくないから、せめてここに居る間も束の間の幸せを噛み締めようと思った。
其れから、しっかり離乳食を食べて…
「 フニャフニャ!!( 今食べとかなきゃ、外に捨てられて死ぬかもしれないからね! )」
「 またお皿に顔を突っ込んでるわ…誰も取らないのに 」
「 食欲旺盛で良いことだ、ははっ 」
必死に、ミルクとサケの粥みたいなご飯を食べた後は、ダイエットを兼ねて遊んで。
「 ミャミャッ!( 食べた分は動かなきゃ! )」
「 よく遊ぶようになったわね 」
「 活発なのはいいことだ 」
猫じゃらしを必死に追い掛けて走り回って、そして疲れたら、ネコママの毛を堪能してしっかり寝る。
「 ミュー……… 」
「 疲れて寝ちゃったのね。可愛いわ 」
「 寝る子は育つ。この子はきっと大きくなるなぁ 」
そんなこんなで、兄弟とも涙のお別れ?をして半月が過ぎた頃に、
今度は優しくしてくれたネコママとも別れることになった。
「 何か察してるかも… 」
「 ミュー( 絶対に行かない!! )」
此処の息子さんが現れ、私を知らない社員に引き渡すらしく、必死でクッションに爪を立てて抵抗していれば、そのクッション事持ち上げられた。
「( なに!? )」
「 ずっと此のクッションと一緒だから持っていってあげる。匂いがついてたら嬉しいだろうからね、ほら…ママに挨拶して 」
「 ………( 仕方ない、諦めよう )」
こうなる事もネコの定め。
致し方ないと抵抗を止めて、もう一度ネコママの傍に下ろされれば、お互いに鼻先を寄せる。
「( 元気でね、私の大事な娘 )」
「( ん…行ってきます。ママも元気でね )」
「( ふふ、ありがとうね )」
美人で綺麗なネコママとお別れするのは正直寂しかった。
愛情いっぱいに優しくしてくれた母親なんて、初めてだからだ。
でも…此れもネコとして通るべき道だと納得して、猫用キャリーバッグへと入れられれば、そのまま夫婦共にお別れになる。
「 これ、その人から気持ちだと現金を貰ってるから、使ってくれ。それじゃ…渡してきます 」
「 随分多いわね?分かったわ…しっかり御礼を言ってね。それじゃ、青ちゃん。元気でね、大切にされるんだよ 」
「 うむ…寂しくなるが…元気でな 」
「 ミィー!( じゃね…人間のママパパ )」
私がどれだけの金額で売れたかは知らないけど、先に買われた兄妹よりちょっと高値なのは察した。
売れ残りと思ってたけど、そうじゃなかったのかな…。
そんな事を考えながら、初めての外をキャリーバッグの隙間から眺めていれば、彼はタクシーに乗り込む。
「( ネコの世界で見る外は…大迫力だなぁ… )」
「 新幹線だけど、少し長旅になるから頑張ってな 」
敬語じゃない息子さんに新鮮に思いながら、ドキドキワクワクのまま、じっとしていた。
「 鳴かないけど…大丈夫かな?暑くない? 」
「( 新幹線で五月蝿いのは迷惑だからね、大丈夫だよ )」
新幹線に乗ってからは、外は見えなかった為に、暇潰しに寝ていれば定期的に息子さんが、身体に触れて来たり、話し掛けて来る為に、少しだけ顔を覗かせる。
「 おや、まぁ…可愛いねぇ…お出かけかい? 」
「 あ、はい。まだ子猫ですよ 」
「 まぁまぁそうかい。頑張ってねぇ 」
隣の席に座ってるお婆ちゃんが良く話しかけてきた為に、この息子さんの暇は潰せた様子。
3時間での新幹線の旅を終え、
今度は駅あった、別のタクシーへと乗ってから移動のよう。
「( いつもは良く鳴くのに…大丈夫かな… )」
「( 少し疲れてきた…… )」
少し気を張っていたせいで疲れた為に、タクシーの中では身体を伸ばして寝ていた。
「 着いたよ、ここが新しい君の家になるよ 」
「( ん? )」
30分程タクシーの中で過ごした後、聞こえてきた声と共に外を見れば、其処には二階建ての大きな英国建築風の家があった。
海外デザインの輸入住宅とも思えるぐらいの紺色の周りに焦げ茶の屋根が特徴的な、
大きなアーバンスタイルのハウスは、正に金持ちの別荘のよう。
「( お金持ちそう…、あと優しければいいな )」
外見は合格と思って居れば、彼は玄関より離れた先にあるインターホンを押した後誰かと話してから、玄関へと近づいた。
このドキドキは、新しいご飯になる時以来かもしれない。
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