51人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
〜 水無瀬視点 〜
目が覚めたら病院に居た。
呼吸器をつけていても、左手にはブルーサファイアのネクタイピンを離す事なく握りしめていたらしい。
俺は一命を取り留めたが、ラナは…。
膝の上で、キスを落としてないのに
ネコの姿になり…。
それが徐々に冷たくなり、動かなくなったのを、酷く覚えている。
やっと思いを伝えた時には、全て遅くて…。
俺の心は失われたように、何も考えられなくなった。
なんとかリハビリをして歩けるようになり、私生活に戻れるようにはなったが、
ラナを失った心の傷は癒えることなく、仕事すら手を付けれなかった。
最低限の食事だけしか取らず、酒を呑みまくり、寝てばかり過ごす日々が5年続いた。
30歳になった俺は、只のクソだろう。
弛んだ身体、無精髭が生え、髪もボサボサ。
何処がイケメン社長なのか、全くわからない程に、クソ。
「 酒、買ってこい… 」
「 呑みすぎですよ。ダメです 」
「 いざって時に役にたたねぇ…クソ、ロボットが…。酒ぐらい買ってこいや! 」
「 ……ラナが、今の貴方を見ると悲しみますよ 」
「 うるせぇ……。彼奴はもう…いないんだよ。買って来ないなら、自分で行く 」
ラナが居ない事ぐらい、俺が一番良く分かってる。
けれど、それを分かっていながら…
受け入れられないんだ。
想羅に八つ当たりしても仕方ないが、苛立ちをぶつければ、部屋を出て車庫の方に行く。
「 スカイ、開けろ! 」
゙飲酒運転になりまず
「 自動だから、関係ねぇだろ…クソが! 」
軽く車体を蹴れば、無駄に頑丈な作りの為に足先がじんわりと痛み、軽く殴っては歩く。
ふらつきながら歩き、ここから近いコンビニへと向かう。
「 酒を買い漁り過ぎて…ネットでもブラックリストに載ってますからね 」
「 直接買いに行かせて、門前払いされるといいですよ 」
毎日浴びるように飲んで、常に酔ってるような感覚だから、どっちがコンビニなのか分からないまま歩く。
「 クソ、ロボット…。テメェ等に…感情なんてもんがないから…。ラナが、死んでも…なんとも思わないんだろ… 」
想羅のやつなんて…、
あんなに可愛がってたはずなのに…。
゙ネコだから弱かったんでしょうね゙
ぐらいの言葉で終わったからな。
ネコではなくとも腹を撃たれたら、死ぬだろう。
俺はラナが居たことで軌道が少しズレて、横腹だったが、
其れでも内臓がグチャグチャだった。
最新の医療技術が無ければ、死んでいても可笑しく無かったのだから…
小さな猫が…銃に撃たれて無事なはずがない。
「 ミャァー…ミヤァー 」
「( ラナみたいな声だな…。考え過ぎて幻聴聞こえるなんて… )」
「 ミャァー!ミャァー!シャァー!! 」
「 ヴォンッ!ヴォンッ!! 」
「 あ? 」
幻聴では無い程にハッキリと聞こえ始め、左右を見渡せば、大きな木の下で飼い犬が上に向かって吠えてるのを見て、眉を寄せれば…
こちらに気付いた飼い主が紐を引っ張った。
「 ジュンちゃん、行くわよ!! 」
「 ヴォンッ!ヴォンッ! 」
「 躾のなってねぇ犬だな…。てか……猫? 」
野良猫なんてこの世にいない居ないはず。
ロボットか、それとも飼い猫が逃げ出したのか…。
どっちにしろ、猫がいるのだろうかと大木の傍に近付き、上を見上げ、角度を変えていれば見えた。
「 あ、居た……。っ…… 」
「 ミヤァッー…ミヤァー! 」
薄汚れやせ細った、まだ小さい猫は下りられなくなってるのか、良く鳴く。
「 やばい、上見過ぎて…気分わりぃ…。猫、降りてこい…。御前なら…ジャンプできるだろ?ほら……( この時代に…捨て猫か? )」
希に飼いきれないと捨てる者はいる。
けれど、直ぐに捕まっては保健所に連れて行かれるのだから、居ないみたいなもの。
使われなくなった玩具のように処分される前に、誰か里親でも探してやろう…。
「 シャーー! 」
「 なんで、助けようとする俺に威嚇するんだ…。ったく……そこで待ってろよ 」
この歳で、運動すらしてなかった俺が上れるかわからないが、あの猫の様子からして動く気は無いだろうなと思い、木をよじ登る。
「 はぁ、くそ、油断すると吐きそうだ… 」
猫を救うのが先か、ゲロるのが先か…。
その境目を考えながら、なんとか上まで上がれば、右手を伸ばす。
「 ほら、来い……。俺は何もしない…( 虐待されてるな… )」
「 シャー!!シャーー!! 」
傷だらけの身体に、子猫に酷いやつもいるもんだな…と思っていれば、猫は手を伸ばした俺の手の甲へと容赦無く引っ掻いてきた。
「 ふっ、そんなの…慣れてるんだよ。ほら、来い…… 」
「 …………… 」
まるで…あの子のような青色の瞳、けれど薄い水色の瞳は丸くなり、僅かに光ればそっと一歩近付いた。
「 って、バカ!! 」
「 ミャッ! 」
けれど猫は、脚を滑らせた為に咄嗟に手を伸ばした。
掴まえれたか、受け止められたか分からないが…。
背中と腰の痛みに眉間にシワを寄せていれば、唇へと触れる僅かな感触に気付く。
「 ぬあっ!? 」
猫の口?鼻先?が当たったことに気づいて、背中の痛みを気にせず、後ろに下がれば…。
その猫の身体は、幼い少女へと変わった。
「 いたみゃ、い…………みゅぅ…… 」
「 は……?クティノス……? 」
何故…クティノスなんて、高価な猫が…?
全く、理解出来ないが…。
其れよりも…
夢でも見てるのだろうか…。
「 ら、な……? 」
「 ミャッ? 」
何故…亡くなった、あの子によく似た少女の姿をしてるのだろうか。
思考が追いつかずに困惑して、無意識に名を呼べば、猫耳は揺れ動き顔を向けてきた。
「 おじ、しゃん……。わたし、の…まえの、なゅま、え…なん、で…しっ、てるの…? 」
「 前の?え、ラナは死んで……は?え…ラナ…なのか? 」
「 ミャッ! 」
ラナは死んだ…はず。
この手の中で冷たくなってるのは知ってる…。
それによく似てるとは言えど、ラナが最後に人間になってた時より随分と幼い5歳ぐらいのやせ細った少女だから疑問になっていれば、猫耳の少女は眉を寄せ、鼻を押さえた。
「 おじ、しゃん……おしゃけ、くちゃい…… 」
「 あ、すまない…。じゃなくて…ラナ、俺だ。水無瀬だ…。じゃなくて、パパだ。覚えてないか?( 俺は何を言ってんだろうか… )」
「 ミャッ? 」
こんな少女が、ラナの訳じゃないと分かっていても…。
ほんの僅かな期待を込めて、自分の胸元に手を当てて言えば、少女は眉を寄せた。
「 ぱぱ、こんな…でふ、ひげもじゃもじゃじゃ…みゃい! 」
「 ぐは、ごめ……。ほんと、あと…俺の限界が来るから、服やる」
「 くしゃっ!いや! 」
「 いいから、着といてくれ!話は後だ! 」
臭いと言われ、デブの髭モジャモジャなのは事実だから許せるが、
流石に全裸のままこんな住宅街で居させたくないから、上のシャツを脱いでから、被せた。
「 おぇー、くしゃー 」
「 お゙えぇぇぇぇ……… 」
「 ミ゙ャッー!!!!??? 」
上を見過ぎたり、落ちた衝撃やら、高ぶる気持ちやらで限界が訪れ、下水へと盛大にゲロった。
耳元で、大声を出さないでくれ…。
もし、ラナの生まれ変わりなのなら…。
もう一度、もう一度…大切にするから、
俺とずっと一緒に過ごしてくれ。
最初のコメントを投稿しよう!