17 もう一度

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〜 水無瀬視点 〜 目が覚めたら病院に居た。 呼吸器をつけていても、左手にはブルーサファイアのネクタイピンを離す事なく握りしめていたらしい。 俺は一命を取り留めたが、ラナは…。 膝の上で、キスを落としてないのに ネコの姿になり…。 それが徐々に冷たくなり、動かなくなったのを、酷く覚えている。 やっと思いを伝えた時には、全て遅くて…。 俺の心は失われたように、何も考えられなくなった。 なんとかリハビリをして歩けるようになり、私生活に戻れるようにはなったが、 ラナを失った心の傷は癒えることなく、仕事すら手を付けれなかった。 最低限の食事だけしか取らず、酒を呑みまくり、寝てばかり過ごす日々が5年続いた。 30歳になった俺は、只のクソだろう。 弛んだ身体、無精髭が生え、髪もボサボサ。 何処がイケメン社長なのか、全くわからない程に、クソ。 「 酒、買ってこい… 」 「 呑みすぎですよ。ダメです 」 「 いざって時に役にたたねぇ…クソ、ロボットが…。酒ぐらい買ってこいや! 」 「 ……ラナが、今の貴方を見ると悲しみますよ 」 「 うるせぇ……。彼奴はもう…いないんだよ。買って来ないなら、自分で行く 」 ラナが居ない事ぐらい、俺が一番良く分かってる。 けれど、それを分かっていながら… 受け入れられないんだ。 想羅に八つ当たりしても仕方ないが、苛立ちをぶつければ、部屋を出て車庫の方に行く。 「 スカイ、開けろ! 」 ゙飲酒運転になりまず 「 自動だから、関係ねぇだろ…クソが! 」 軽く車体を蹴れば、無駄に頑丈な作りの為に足先がじんわりと痛み、軽く殴っては歩く。 ふらつきながら歩き、ここから近いコンビニへと向かう。 「 酒を買い漁り過ぎて…ネットでもブラックリストに載ってますからね 」 「 直接買いに行かせて、門前払いされるといいですよ 」 毎日浴びるように飲んで、常に酔ってるような感覚だから、どっちがコンビニなのか分からないまま歩く。 「 クソ、ロボット…。テメェ等に…感情なんてもんがないから…。ラナが、死んでも…なんとも思わないんだろ… 」 想羅のやつなんて…、 あんなに可愛がってたはずなのに…。 ゙ネコだから弱かったんでしょうね゙ ぐらいの言葉で終わったからな。 ネコではなくとも腹を撃たれたら、死ぬだろう。  俺はラナが居たことで軌道が少しズレて、横腹だったが、 其れでも内臓がグチャグチャだった。 最新の医療技術が無ければ、死んでいても可笑しく無かったのだから… 小さな猫が…銃に撃たれて無事なはずがない。 「 ミャァー…ミヤァー 」 「( ラナみたいな声だな…。考え過ぎて幻聴聞こえるなんて… )」 「 ミャァー!ミャァー!シャァー!! 」 「 ヴォンッ!ヴォンッ!! 」 「 あ? 」 幻聴では無い程にハッキリと聞こえ始め、左右を見渡せば、大きな木の下で飼い犬が上に向かって吠えてるのを見て、眉を寄せれば… こちらに気付いた飼い主が紐を引っ張った。 「 ジュンちゃん、行くわよ!! 」 「 ヴォンッ!ヴォンッ! 」 「 躾のなってねぇ犬だな…。てか……猫? 」 野良猫なんてこの世にいない居ないはず。 ロボットか、それとも飼い猫が逃げ出したのか…。 どっちにしろ、猫がいるのだろうかと大木の傍に近付き、上を見上げ、角度を変えていれば見えた。 「 あ、居た……。っ…… 」 「 ミヤァッー…ミヤァー! 」 薄汚れやせ細った、まだ小さい猫は下りられなくなってるのか、良く鳴く。 「 やばい、上見過ぎて…気分わりぃ…。猫、降りてこい…。御前なら…ジャンプできるだろ?ほら……( この時代に…捨て猫か? )」 希に飼いきれないと捨てる者はいる。 けれど、直ぐに捕まっては保健所に連れて行かれるのだから、居ないみたいなもの。 使われなくなった玩具のように処分される前に、誰か里親でも探してやろう…。 「 シャーー! 」 「 なんで、助けようとする俺に威嚇するんだ…。ったく……そこで待ってろよ 」 この歳で、運動すらしてなかった俺が上れるかわからないが、あの猫の様子からして動く気は無いだろうなと思い、木をよじ登る。 「 はぁ、くそ、油断すると吐きそうだ… 」 猫を救うのが先か、ゲロるのが先か…。 その境目を考えながら、なんとか上まで上がれば、右手を伸ばす。 「 ほら、来い……。俺は何もしない…( 虐待されてるな… )」 「 シャー!!シャーー!! 」 傷だらけの身体に、子猫に酷いやつもいるもんだな…と思っていれば、猫は手を伸ばした俺の手の甲へと容赦無く引っ掻いてきた。 「 ふっ、そんなの…慣れてるんだよ。ほら、来い…… 」 「 …………… 」 まるで…あの子のような青色の瞳、けれど薄い水色の瞳は丸くなり、僅かに光ればそっと一歩近付いた。 「 って、バカ!! 」 「 ミャッ! 」 けれど猫は、脚を滑らせた為に咄嗟に手を伸ばした。 掴まえれたか、受け止められたか分からないが…。 背中と腰の痛みに眉間にシワを寄せていれば、唇へと触れる僅かな感触に気付く。 「 ぬあっ!? 」 猫の口?鼻先?が当たったことに気づいて、背中の痛みを気にせず、後ろに下がれば…。 その猫の身体は、幼い少女へと変わった。 「 いたみゃ、い…………みゅぅ…… 」 「 は……?クティノス……? 」 何故…クティノスなんて、高価な猫が…? 全く、理解出来ないが…。 其れよりも… 夢でも見てるのだろうか…。 「 ら、な……? 」 「 ミャッ? 」 何故…亡くなった、あの子によく似た少女の姿をしてるのだろうか。 思考が追いつかずに困惑して、無意識に名を呼べば、猫耳は揺れ動き顔を向けてきた。 「 おじ、しゃん……。わたし、の…まえの、なゅま、え…なん、で…しっ、てるの…? 」 「 前の?え、ラナは死んで……は?え…ラナ…なのか? 」 「 ミャッ! 」 ラナは死んだ…はず。 この手の中で冷たくなってるのは知ってる…。 それによく似てるとは言えど、ラナが最後に人間になってた時より随分と幼い5歳ぐらいのやせ細った少女だから疑問になっていれば、猫耳の少女は眉を寄せ、鼻を押さえた。 「 おじ、しゃん……おしゃけ、くちゃい…… 」 「 あ、すまない…。じゃなくて…ラナ、俺だ。水無瀬だ…。じゃなくて、パパだ。覚えてないか?( 俺は何を言ってんだろうか… )」 「 ミャッ? 」 こんな少女が、ラナの訳じゃないと分かっていても…。 ほんの僅かな期待を込めて、自分の胸元に手を当てて言えば、少女は眉を寄せた。 「 ぱぱ、こんな…でふ、ひげもじゃもじゃじゃ…みゃい! 」 「 ぐは、ごめ……。ほんと、あと…俺の限界が来るから、服やる」 「 くしゃっ!いや! 」 「 いいから、着といてくれ!話は後だ! 」 臭いと言われ、デブの髭モジャモジャなのは事実だから許せるが、 流石に全裸のままこんな住宅街で居させたくないから、上のシャツを脱いでから、被せた。 「 おぇー、くしゃー 」 「 お゙えぇぇぇぇ……… 」 「 ミ゙ャッー!!!!??? 」 上を見過ぎたり、落ちた衝撃やら、高ぶる気持ちやらで限界が訪れ、下水へと盛大にゲロった。 耳元で、大声を出さないでくれ…。 もし、ラナの生まれ変わりなのなら…。 もう一度、もう一度…大切にするから、 俺とずっと一緒に過ごしてくれ。
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