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御飯を食べ終わり、私が怖がりもせずにうろうろする事を知った息子さんは、ケージの入り口を開けてから、リビングの探索を許可してくれた。
「( ふむ…何処も閉まってて、確かに出られないなぁ )」
色んな角を見て回っても、出られるような場所はなかった。
酸素とか如何なってるのかなって思って調べれば、この家は壁の下側にエアコンの空気が流れる場所があるみたい。
因みにその隙間は、縦の隙間が細すぎて入れなかった。
片手が僅かに入る程度で、空気を感じて猫パンチするしかない。
「 ミィッー( 探索終えたー )」
「 おかえり、ラナちゃん。でも、甘えるのはこっちだよ 」
帰還の報告を兼ねて息子さんに伝えれば、彼は膝の近くで見上げた私をそっと動かして、眉を寄せたままガン見してくる社長さんに向けた。
「 ………… 」
「( …献上された…お供物の気分… )」
ちょっと硬直した後に、そろーと身体を動かして、息子さんの元に行こうとすれば彼はカバンを探る。
「 社長、こんな時は遊んで上げると距離がぐっと縮まりますよ 」
「 ……別に直ぐに懐かなくてもいいだろ。俺は見てるだけでいい 」
「 鑑賞植物や熱帯魚じゃないんですから。ほら… 」
「 ふん…… 」
少し鼻息を鳴らした彼は、息子さんから強引に渡された猫じゃらしを受け取り、先がふわふわになってるそれを眺めてから、軽く揺らした。
「 いや!もっと…こう、俊敏な感じで!止まって、シュッ!と 」
「 ………こうか? 」
何度か目の前で揺らされる猫じゃらしだけど、唆られるような動きじゃないし、
さっき探索をした時に乱れた背中側の毛が気になり、毛繕いをする。
「 ………… 」
「 …ネコちゃんは気まぐれですからね…。一生懸命、毛繕いしてる…かわいいなぁ… 」
子供っぽくふてくしたのか、猫じゃらしを置いてしまった様子を見て、仕方無く毛繕いを止める。
「( ちょっとは媚でも売らないと…フォアグラ貰えないかも知れないしな…。ん…と、この場合…あ…… )」
猫じゃらしから手を離してしまったなら、それで遊ぶと、一人でやっていろ…なんて言いそうな人だから、数歩近付いてから膝の下辺りで、コロンと横たわってお腹を向ける。
「 !?!? 」
「( どうぞ、モフる事を許してあげよう )」
「 あ、可愛いー。触っていいって、触って上げて下さいな 」
ほら、ちゃんと息子さんが理解してくれてるから、触っていいよーとじっとしていたけれど、彼の手は頬杖を付いたまま全く動く様子がない。
寧ろ、石像の如く固まってしまったじゃないか。
「 大丈夫ですよ。この子は余りお腹を嫌が… 」
「( ちょっ、急には擽ったい! )」
モフっと触って擦った息子さんに、擽ったくて其の手を軽く数回噛み付いて、尚且つ後ろ脚で蹴れば、彼もまた硬直した。
「 まぁ、お腹はどの動物も嫌いなのでね! 」
スッと抜き取られた事に、態勢を整えて向かって行こうとすれば、彼は今度は猫じゃらしに持ち替えて、それを振った。
「( 今は!この、ふわふわと戯れる…気は…ない!のに、身体が、疼く! )」
ネコの本能が発動し、ふわふわの猫じゃらしに何度も猫パンチを向けて、攻撃しては、逃げる其れを追い掛け回す。
「 あっ! 」
「( 登ったら取れ……ん? )」
「 ………… 」
この人…
全く動かないから、無意識に壁に思えて登ってしまったけど…気付いた時にはしっかりと服に爪を立てて、腕から肩にかけて登っていた。
「( まぁいいか! )」
「 ……地味に爪が…刺さってる… 」
「 か、帰り際に切りましょうね……」
頭迄登れば、ちょっと普段の景色より高い位置にいることに喜び、尾は揺れる。
「 頬と首……あと腕も、傷だらけに…。すみません…すみません… 」
「 猫って登るもんだろ。別にいい 」
「( 許された!よし、今度から肩は私の特等席だね! )」
此の普段とは違う高さに、いつも見られるならいいと思い、ちょっと堪能してから降りようとすれば、前脚が滑った。
「 !? 」
「 っ……おい…大丈夫か? 」
ちょっと驚いたけど、男が片手で受け止めた為に、落下することは無かった。
彼はそのまま床にそっと下ろせば、すぐに手を離した。
「 社長、初めて触ったのでは!?おめでとうございます!! 」
「 ……骨折れてないか? 」
「( 大丈夫だよ?ほらー )」
其の場で背伸びをして見せれば、彼は何処か安堵したように息を吐いた。
「( 落ちかけただけで、骨は折れないって )」
「( ふにふにしてた……。柔らかいんだな… )」
彼が何を思ってるのかは分からないけど、
触れたことも?もあり、息子さんは帰ることになった。
「 それじゃ、水無瀬さん。何かありましたら御連絡下さい。いつでも相談に乗りますので、頑張ってくださいね 」
「 嗚呼…ありがとうな 」
「 いえいえ。水無瀬さんならきっと大丈夫です!ラナちゃん、元気でね 」
ちゃんと荷物とキャビアとフォアグラが入った袋を持った彼は、ケージの中に居る私に御別れを伝えてから、二人で話しながら此処を出て、廊下の方へ向かった。
「 また仕事の件でも、此方からも御連絡致しますね 」
「 嗚呼、本社の方は任せた 」
「 もちろん。では、失礼します。お疲れ様でした 」
「 お疲れ様。気をつけて帰れよ 」
離れて居ても聞こえるのは、猫の聴覚のお陰だろうなって思う。
「( 息子さんは優しいし猫の扱い上手いから、居ないのはちょっと…かなり不安だけど、まぁいいか。自由なネコニート生活、満喫しよーと! )」
広い家、お金持ち、そして目つきは怖いけど…まぁイケメンの飼い主には間違いないから、幸先いいと思い、お気に入りのクッションに凭れて、お昼寝をする。
「 ………………… 」
「( なんで、この人…ケージの前から、動かないの!?こわっ!! )」
息子さんが帰った後、
彼は何故か…夕方迄近く迄、ケージの前から動くことなく、私を眺めていた。
それも一言も発することなく……。
「( 動物園の……子パンダになった気分… )」
私をやること全てをそんなに眺めてる必要ある!?ってぐらいに見られて、ちょっと気分が下がったから、
キャットタワーの下にある、穴の中へと隠れた。
「 夕食にするか……( これが癒しか…なるほど ) 」
「( この人の思考が…理解できない…。なに、ネコ見過ぎてお腹空いたとか?ネコママ…私、初日でネコの丸焼きにやるかも… )」
やっぱりちょっと怖い人と言う印象は、
初日程度では、取り除けない…。
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