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「あ、もしもし佐久間さん? 午前中に言ってた調査の件。調べがつきました、やっぱり具体的に信者の話を聞きたいって言う書き込みが」
「ああ、ご苦労さんありがとう。ところで」
「はい? っていうか、大丈夫ですか? なんか声が疲れてますけど」
「大丈夫だ。それより二等星って、何人ぐらいいたんだっけか」
「それ調べたの佐久間さんじゃないですか、本当に大丈夫ですか?」
わかっている。手首を掴まれていたとき頭の中で計算してしまっただけだ。四十人分の痛みが引かれた彼は、今何人分の痛みを持っているんだろうか。自分には何人分きてしまうんだろうか、と。
助け合うのが家族だって言うし、これでやっと家族らしくなれる。俺を助けてくれるのは父さんだけ。そして父さんを助けてあげられるのも俺だけだ。逮捕なんてさせない。
相変わらず犯罪の才能あるみたいで偽電話詐欺とか恐喝とかで荒稼ぎをしていた。警戒心が強く何度も引っ越されて名前を変えられて、見つけるのに時間がかかったけど。他の連中へのちょっとした嫌がらせも、もう気が済んだ。十五年ぶりか、本当に久しぶりだな。あっという間に思えて地獄のような長さだった。
閑静な住宅街。そこそこでかい家に女優だった妻と二人の子供に囲まれて優雅に暮らしている。インターホンを鳴らすと、パネルには昔よりもだいぶ老けた父さんが出た。整形したんだな、印象がかわってる。まあ、わかるけど。なんたって親子だし。
「田川急便です」
「ああ、はい。よし、届いた届いた」
荷物の名前はおもちゃ。子供の誕生日プレゼントなんだろうな。優しい父親になったもんだ。だったら俺ともちゃんと向き合って、親子らしくなれるはずだ。十五年間この日のために誰にも与えずに持ち続けていたんだから。長かったなあ、本当に。
玄関が開いた瞬間に腹を蹴飛ばして中に吹っ飛ばすと玄関を閉めて鍵をかける。倒れた父さんの顔面を鷲掴みにした。
「あ、なあ、げほっ」
「ごめんね、お預かりしてた大切な痛みは四十人分減っちゃったんだけど。でもまだたくさん残ってるから大丈夫」
耳元で囁くと、意味がわからなかったらしくもがいている。昔は自分の力でもあったのに。この程度の意味もわからないくらい、遠い昔のことなのか。じゃあ思い出してもらわないと……身をもって。
「十人分の痛みが辛すぎてみんな自殺しちゃったけど。そうなってほしくないから、ちょっと工夫してみるよ」
「だ、れだ。なぜ、こんな……」
取っておいた弛緩剤をすべて注射する。力が抜けて這うことしかできず芋虫のようウネウネ体をくねらせる姿は、まるであの時の俺みたいだ。さすが親子だよな。それにしても、本当に笑える。
「久しぶりだね。すっごくすごおおおおく会いたかったよ」
「へ? あ?」
ガタガタ震える姿が本当に面白い。にっこりと笑って、手に力を込めた。さて、予定を変えて一人分ずつ順番に移していくか。
会いたくて会いたくてたまらなかった人。久しぶりに会ったら、もしかして昔の情が湧いて思いとどまるかと思ったけど。予想通り全然そんなことなかった。
「十五年前に数十分しか会ってない赤の他人は一目で俺だってわかったのに。……なんでお前はわからないんだよ」
昔懐かしい痛みを、どうぞ。八十三人分。
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