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僕は、勇者の息子だ。
数年前、この国に怪物が大量出現した。
もちろん、国の魔法使いたちが、戦い、怪物たちをやっつけたーーぶっちゃけると、殺めた。
けど、怪物の人数は、とても多い。
人間で戦える人と、怪物たちの比率は、1:5くらいなのだ。
しかし、今まで、なんとかこの国は滅びず、魔法使いたちも増え、比率は3:5くらいまでになった。
なぜ、今までこの国は無事だったのか?
その、『4』の差を埋め、そして魔法学校を立ち上げたのは、この国で、勇者と言われ、そして、僕や弟からは、『お父さん』と呼ばれている人だ。
簡単に言うと、僕は勇者の息子ってこと。
でも、それに感謝したことは一度もない。
ーー勇者の息子っていうだけで期待され続けるんだから。
『勇者の息子なんだから、10歳からしか使えない魔法も、君にならもう使えるんじゃない?』
『一番難しい魔法は火炎だよね。教えてくれない?』
『勇者様は、回復魔法が上手だったんですって!あなたにもできるかな?君の得意魔法は?』
そして、そんな期待は、あっという間に失望へと変わる。
母親も、父親も例外なんかじゃなくて。
「ーーなんで弟にできることを、お兄ちゃんができないの……?」
弟が優秀で、母親はそちらにのみ、関心を向けた。
父親も父親で、僕に誕生日プレゼントを欠かしたことはなかったけど、弟へこっそりお小遣いやプレゼントを多くやっていたことは知っていた。
個人的に練習に付き合っていたことも。
「な、あいつだろ?『勇者様』の息子なのに、魔力が全然ねぇやつ」
「弟君の方が、ずっと優秀なんだって」
「恥ずかしいよなぁ」
「座学も普通なんでしょ?」
聞こえる距離で、僕を嘲笑う声が、その日も聞こえた。
わかってることだし、心底、興味なんてない。
あいつらも、全然魔力も才能もないし、努力すらしてない。
他人を蹴落として、自分は優秀だ、なんて思いたいだけ。
もちろん、声には出さないけど。
ただ、その日は違って。
「お前らさぁ。じゃあお前らは優秀なのかよ」
そう言い返してくれるやつがいたんだ。
「それは、本当にそうだよ。勇者様の息子だからって、全然関係ないよね?魔力はともかく、座学は君らが思ってるより、ずっと優秀だよ、彼は」
そう言い返してくれた2人は、リーダーシップもあって、全魔法が優秀なやつと、座学がトップな優等生だった。
それから、少し話すようになってーー。
僕らは、『真友』と呼べるほどになっていた。
だから、全然寂しくなんてなかったし、それに弟だって、僕をバカにはしなかった。
「あの。入ります」
「何?ーー兄さんか」
僕の弟が、振り返って表情を緩める。
「何の用なの」
少しキツめの言い方だけど、陰口を叩かれたことも、無視されたことも、見下されたようなことを言われたこともない。
「あの、実は、教科書貸してほしくて……っ」
マジで情けないな、僕。
弟と同じレベル、ということだ。
弟と僕は、学年が3つも違う。
座学の教科書だけど、弟は飛び級してるらしい。
「兄さんも、父さんの個人授業、受けてみれば?」
弟は、悪気がないのかあるのか、そんなこという。
まあ、ないんだろうな。
「僕は、魔力がないし……期待なんて、もう、されてないから」
「そう?まだチャンスはあるって。ほら、今騒がれてる、怪物のランク上のモンスター。アレ倒したら、勇者様だよ。きっと皆見直ーー、」
「失礼しましたっ……」
優秀な弟の言葉が気まずくて、僕は走って自分の部屋に戻った。
「ーー本当、皆バカみたいだよね」
僕は、弟が小さくつぶやいたことに気づかなかった。
しかし、のちにーー僕が指揮をとり、弟や真友たちとモンスター倒した後、何と言っていたか、教えてもらった。
「兄さんは、確かに要領悪いけど。でも、ずっと努力してたよね。しかもその努力、いや、元々の魔力も才能もーー。父さんからのプレゼント、『魔力貯金箱』に貯めてたんでしょ?本来の力、全部を解放した時、どうなるか楽しみだね。兄さん、今要領悪いフリしてるけど、友達は結構恵まれてるし」
ーーその通り。
僕は、魔力を全部、父さんからプレゼントされた、貯金箱に溜めていた。
父さんから、というより、父さんからプレゼントされたお金で、かもだけど。
あの貯金箱は、努力して得た魔力も、元々の魔力も、全部溜めることができる。
ただし、中の魔力が解放されるのは、魔力が上限ーー父さんを、ずっと超えてからだ。
弟は、時々、何であんなものもらったの?って聞いてくるけど。
でも、もしもあれがなければ、皆僕に頼って、僕を表面上だけ助けて、敬ってーーそんなの、いやだ。
勇者の息子というだけで、表では、『すごいね、さすが!』で、陰では『才能だろ』『贔屓』なんて言われても、誰かを救うなんて全然ムリだし、やだ。
でも、皆僕をバカにしてくれてたらーーそしたら、僕は、皆を見返すため、そして真友たちのために、いくらでも頑張り、世界を救える。
だからあれは、必要なものなんだ。
お前も、あれがあれば、僕に勝てるほどの魔力を持っていたかもよ?
努力してない、だなんて言わせない。
弟だって、僕と同じくらい努力してきた。
ただ、始めたのが遅かったのか、それとも、すでに『一番』で、皆が褒めてくれるから、現状維持だけで満足してしまったのかーー。
それは知らないけれど、結果として、僕の方が強くなってる。
魔力を一時的にでも、『貯金』という形でも、失ってみることは、結構大事だったんじゃないか……と、僕は魔法学園の学園長、兼、勇者になった今でも、そう考えている。
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