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なくはない話ではある。むしろ流川云々よりまだ現実的な話だ。
自分だって暴閥界隈の全てを知っているわけじゃない。転移魔法は失われた魔法ではあるが、技能球を家宝として隠し持っている暴閥だって探せば存在するだろう。
転移魔法は失われた大魔法であり、流川家を除いて使える魔導師は現代文明に存在しない。現代の魔導師が使えないとなれば、転移魔法の技能球の価値は計り知れないものだ。少なくとも一個人が正攻法で入手することは不可能に等しい。
国一つ丸ごと買えるほどの大富豪なんてそうそう存在するものではないし、技能球一つのためにそれだけの大金を出す人間はごく僅かだろう。
「そういや新人が、その転移魔法の技能球を持ってたんだよなあ……家宝だとかなんだとか言って……」
御玲に視線を向ける。御玲はそれを感じ取るが、咳払いで視線をいなした。
「確かに私の主人は、その技能球を持っておりますね。つまりレクさんは、澄男さまの懐から盗んだのではないかと考えておられるので?」
「確定……とまでは言えねぇが、もしブルーたちがあの双剣使いモドキと一戦交えていたとしたら、可能性は濃厚だぜ? あの血の気の多い奴がやりあってねぇなんてことねぇだろうし」
御玲は無言で賛同の意を示してきた。
新人は喧嘩っ早く極めて短気な性格だ。喧嘩を売られていながら冷静に対応するなんてことはない。売られた喧嘩は必ず買う。それが奴の信条であり、本能だ。
「だとすると何故澄男さまはここに来られないのでしょう。敵の侵入を許したとなれば、難癖つけて持ち場を離れそうなものですが」
新人は喧嘩っ早い。奴ほど堪忍袋の弱い男はそうそういないだろうし、明文化された秩序が存在しない武市といえども暴閥界隈に限るならば、理性的に動く人間の方がまだ割合として多いと思う。
仲間のこととなれば一気に血気盛んになる新人が、乱入して配置もクソもなくさないなんて世界線が果たして。
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