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「そういや、転移魔法の技能球を持ってるのってアイツだけなのか?」
「……いえ、私も持ってま……」
すが、と言おうとしたであろうその口は、凍りつく精神世界の空気とともに閉ざされる。
転移魔法の技能球を持っているのは新人と御玲の二人だけ。つまり技能球は二個常備していることになる。今更ながら家宝を二つ平気な顔をして持ち歩いているのは不自然極まりない話だが、思い返してみれば御玲は双剣使いとバリバリ肉弾戦を敢行してしまっている。
御玲も同じ考えに至っているとすれば、奴の懐には―――。
御玲が急いで懐をまさぐる。女らしさを捨てた舌打ちをかまし、自分らへ向かって顔を上げた。
「どうするのね。お前らじゃ、小娘二人の戦いに割り込めないのね」
第一声で沈黙を食い破ったのはハイゼンベルクだ。
現実世界に全員が戻ってきた今でも、二人は攻防を続けていた。下手をすれば請負官すら遥かに凌ぐ技量を持っている実力者だろうと関係なく、戦いに並行して結界の維持も百代がやっていると考えると、実力差は判然としている。
ただし百代は知らないのだ。相手が御玲の技能球を隠し持っていることを。
「とりあえず公式回線が繋がるか試してみるか……」
冷静を装うが、額に滲む汗は隠しようがない。
この場において最も請負人として経験を積んでいるのは自分だ。正気を失っては此方側の指揮系統は潰れてしまう。
苦労を背負い込んでしまう体質が恨めしく思ってしまったが、今は双剣使いを逃がさないのが先決だ。
目を瞑る。自分の意識がどこに行ったのかは、言うまでもない。
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