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1.彼氏とドナドナ
彼氏と夜中にコンビニまで歩いていたら、異世界に紛れ込んでいた。
「あ、ご新規二名さんっすかー」
「は?」
「出身だけ教えてもらっていいっすかね? ってか、チキューっしょその見た目」
「え?」
「チキューから二名様ご来国でーす」
部屋着で宇宙旅行に出かけたつもりはない。けれどそこは、宇宙どころかまったく違う世界だった。
気づいたら僕たちがいたのは六畳ほどの白い空間で、唯一ある机と椅子には紺色の服を着た薄茶色の髪の男。居酒屋によくいるやる気ない店員みたいな応対をされて、僕と彼氏の桐人は訳がわからないまま異世界の生活に放り込まれた。
放り込まれたと言うと語弊があるかな。
実際には役所のような場所で手続きを行い、指先から一滴の血を取られたかと思うとパスポートみたいな身分証が発行された。その情報に従ってこの世界で生きていくため数日間の講習を受ける。
転移者は皆そうらしいけど不思議な力によって話し言葉に不自由はなく、読み書きはアルファベットの進化系のような感じで基礎だけは教わった。
そして当面の生活資金と住む家が与えられ、恐ろしいほどスムーズにこの世界での生活基盤ができたのだ。ぽっと出の異世界人にしては手厚いサポートを受けられたと言わざるを得ない。
この国はファリアスというらしい。日本に似て島国だ。四季もあるし、和食っぽい料理も浸透している。でも日本ではないのは確実だった。
パラレルワールドとか、ゲームやアニメの中に存在する世界と捉えたほうがしっくりくるかも。けれども、中の人はちゃんと生きて生活しているから現実だ。
あ、そういえば。僕と桐人は一緒に来たものの、別々の講習を受けることになった。なぜなら、身分証には名前と現在の年齢の他に……驚くべき情報が記されていたからだ。
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メグム ノトヤ(19)
オメガ
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どうやらこの世界は、桐人に借りていたボーイズラブコミックで読んだことがあるオメガバースの世界らしい。
オメガバースというのは男女の性別とは異なる第二の性のことで、アルファ、ベータ、オメガという三つの性別がある。
ちなみに桐人はアルファだった。普通なら戸惑って然るべき場面かもしれないけど……その変化に僕は喜んだ。
――だってここなら僕たちは、切っても切れない関係になれる。
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