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数時間が経ってさすがに疲れてきた頃、ポツポツと雨が降り出した。うわ、最悪だ。雷雲もゴロゴロと音を立てている。
二台のうち片方のベンチの上には屋根があった。おれは母に、そこで休んでくるように伝えた。それほど距離はないし何かあっても駆けつけられるはずだ。
――そう思っていた。
母と離れた瞬間、ピカッ!と強い光に包まれ目が眩む。それが雷だと気づいた次の瞬間には――
憔悴した父のいる研究室に戻ってきていたのだった。雷の落ちた音は聞こえなかった。
「リアン!」
「母さん!……ねぇ、母さんは!?」
感動の再会どころか、俺は目の前から母がいなくなったことに衝撃を受けていた。それこそ、雷に打たれたように。
――結局、それから二人で何度も機械を弄ってみたものの母が戻ってくることはなかった。俺が近づいても回路は光らなくなり、うんともすんとも言わない。
俺の持っていたらしき魔力はあのときほぼ使い切っていて、帰ってこれたのは、僅かに残った魔力と雷の電力が合わさって起きた偶然だろうと結論づけられた。
しばらくして父は母が失踪したことと、その原因がこの世界の異世界転移魔法によるものであると発表した。
地球と座標を繋いだこと、それが俺の魔力に反応して作動してしまったことは俺たち二人だけの秘密となった。
数年後に父は転移時の魔力波を解析するプログラムを完成させ、あのときの表に出せなかった発見とは違った方向性で今度こそ脚光を浴びた。
国から褒章を授与され、父は所長となり、研究所は立派なものに建て替えられた。
しかし俺たち家族は幸せじゃなかった。父も俺も、それぞれ罪悪感を抱えていたのだ。
父は研究に対し夢中になるあまり、間違った方向に進んでいたこと。研究室に家族を招いてしまったことを。
俺は迂闊に未知の機械に近づいてしまったこと。それに母を巻き込んだ挙げ句、自分だけが帰ってきてしまったことを……
もともとは母がいてこそ成り立ってきたような家族関係だ。母に関すること以外は研究馬鹿だった父と、罪悪感に塞ぎ込んで勉強ばかりするようになってしまった俺とでは、上手く噛み合わないことも多かった。
憎しみがある訳ではない。ただ、どうしたらいいのかわからなくて……母のことを考えるたびに訪れる不安をぶつけ合って、毎日過ごしていた。
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