22.知らない天井

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22.知らない天井

全身が痛い。 針だらけの血液が全身を巡っているみたいに、身体の中を恐ろしいほどの痛みが駆け巡り、ばらばらに壊れてしまいそうだ。 その痛みを抱えながら、僕は長い階段を登っていた。 周囲は雲ひとつ無い綺麗な青空だったけど、綺麗とか怖いとか感じる余裕もなく、ただひたすらに痛くて、息が苦しい。 もう、嫌だ……楽になりたい。そう考えると少しだけ痛みが遠のく気がする。 呼吸の仕方も忘れたみたいに下手くそに不規則になって、それなのに階段を登る脚は軽くなった。 僕は階段の上を見上げる。そこにあるのは複雑な彫刻の大きな大きな門扉だった。 あそこをくぐれば楽になれる。もう何も考えなくて良い。 そう思ってもう一段上がった。 『……ぐ!……メグ!』 そのとき、下の方から声が聞こえた。僕の名前を呼んでいる。 誰だっけ?その頭の芯をじんと痺れさせるような低い声は、耳に心地よくてずっと聞いていたい気もする。 『メグ!お願いだから……戻ってきてくれ!』 そんなに叫ばず、穏やかに話してくれればもっといいのに。ちょっと苛々して、僕は振り向いて階段の下の方を覗き込む。 階段の続く先は鬱蒼と生い茂る森だった。たくさんの人の気配がするのに、得体が知れなくて怖い。 それでも声の主が気になって僕は少しずつ階段を下りた。 一歩下りるごとに身体を突き刺すような痛みが強くなり、息の苦しさも戻ってくる。僕は思わず足を止めてその場で蹲った。 もうやだ。この苦しみをどうにかしてほしい。 両手で顔を覆ったとき、右手だけが妙に温かいことに気づく。そこは痛くない。右手で触れた場所も、痛みが和らぐ気がした。 僕はペタペタと自分の身体を右手で触ってみる。痛みがなくなる訳じゃないけど、温かさが伝わってきてなぜか楽になった。 もう一度立ち上がって階段を下りる。だんだんと人の気配が近づいてきて、恐怖に足がすくむ。 人が怖い。悪意が怖い。無関心が怖い。 幼い頃から感じてきた感情がぶわっと溢れだし、気づけば僕の身体も7歳くらいの頃に戻っていた。 5歳で両親が死に、叔父夫婦の家に引き取られて。従弟が生まれてからは家の敷地で一人離れて生活していた。 僕はもう一度階段の上を見上げる。立派な門扉の先に両親の影が見えた気がして、思わず叫んだ。 「パパ!ママ!」
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