22.知らない天井

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反射的にもう一度階段を駆け上ろうとしたとき、右手をギュッと掴まれてつんのめった。 びっくりして振り返ると、肩まで伸ばしたさらさらの黒髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ子どもが、小さな手で僕を引き止めている。 「……リア?」 そのお人形みたいな顔には見覚えがあった。一度だけ会ったことがある、ぶっきらぼうな女の子だ。 『メグ、おれと一緒に戻ろう』 ああそうだ。男の子だった。僕の勘違いを知ったとき、ノンさんには笑われ、リアはしばらくむくれていたんだっけ。 右手が温かい。……あの日も僕は家族と暮らす温かさを思い出して、胸がいっぱいで眠れなかった。 しあわせで、苦しくて。いつかもう一度、家族と一緒に暮らしたいと思っていた。 笑いながら一緒にご飯をたべたい。寝付けない夜は寄り添ってほしい。誰かに心から愛されたい。 鼻の奥がツンと痛み、目頭が熱くなる。 この右手を離さなければ、もう一度チャンスを貰えるだろうか? 涙で視界がゆらゆらする。 階段から足を踏み外しそうになって、慌ててその手に縋りついた。 『大丈夫。怖くないよ』 目から零れ落ちた涙の粒を、リアが少し背伸びして……キスで吸い取った。 「……え!」 『愛してる』 その言葉に目眩を感じくらっとした瞬間、階段から青い空間へ飛んで、落ちた。 なのに不思議と怖くない。僕の右手をしっかりと掴む、リアンが見えていたから―――― ゆっくりと目を開くと、見知らぬ天井……じゃなくて、明らかにそこは病室だった。 朝だろうか?閉じられたカーテンの隙間から日が差し込んでいる。 僕はもう自分の状況を思い出していた。昨日の事件がきっかけで、たぶん……生死の境を彷徨っていた。あれは夢だったんだろうか。 右手は温かく、大きな手に包まれている。慣れない感触だったけど、その主はもう分かっていた。 右に顔を向けると、リアンが椅子に座ったままベッドに突っ伏して眠っている。いつもさらさらな髪は乱れて、無造作に一括りにされていた。 「……りあん」 気づけば喉はカラカラで、掠れた空気みたいな声しか出なかった。それなのに、握った手がぴくっと反応したかと思うと、次の瞬間リアンは目を覚ました。 「メグ!!」 「リアン……ありがとう」 「俺の方こそ……俺のほうが……!」
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