22.知らない天井

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人工呼吸器越しの小さな囁きを拾って、リアンは僕の手を掴んだまま両手で顔を覆ってしまう。 それでもすぐにナースコールを押し、水差しで水を飲ませてくれた。リアンの顔は真っ赤で、目が若干潤んでいるように見えたのは気のせいかな。 やってきた医師から診察を受け、僕の記憶に抜けがないことを確認したあと、身体の状況を医師が教えてくれた。 脇腹の刺し傷は、応急処置が的確で大事には至らなかったこと。あとやっぱり飲まされた薬はとんでもない劇薬だったようだ。そのせいでショック症状を起こして死にかけたらしい。 昨夜はなんども呼吸が止まりかけて危なかったが、朝方に回復の兆しが見えたこと。もう安静にしていれば徐々に回復していく予定だそうだ。 あと心肺蘇生の過程で肋骨にヒビが入っているから気をつけてね、とのことだ。 確かに少しでも身体を動かそうとすると泥のように重く、胴体部分は痛かった。でもこれから良くなっていくと思えばなんてことない。夢で感じた苦しみは本物だったんだろう。 変な話だが死を克服したことで、生きていれば何も怖くないとさえ思える。生まれ変わったような心地だった。 その後は代わる代わる人が訪れて、その間にリアンも一度自宅に帰った。夜にもう一度来てくれると約束して。 リアンには聞きたいこと、話したいことがたくさんある。あとで二人きりになったら、ゆっくり話したい。 警察官が話を聞きに来たとき、ディムルドがいてくれて本当に助かった。僕の把握できていた状況はごく一部だからうまく説明できなくて、それを補完してくれたおかげで自分の頭の中も整理ができた。 犯人が話した情報も含めるとこういうことだった。 ことの始まりは、ラハーヌという異世界転移研究所の職員がリアンに抱いた妬みだった。 ラハーヌはアルファだが、生まれつきフェロモン枯渇症という体質で、生活に支障はないがオメガと番契約を結ぶことができないらしい。具体的には項を噛んでも番にはなれないし、フェロモンでオメガを安心させることもできない。しかしその精液にはオメガを妊娠させたり、発情期を早く終わらせる効果もちゃんとあるようだ。 血液検査ではアルファと診断されるものの、ベータ寄りの体質は彼の性格を歪めてしまった。
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