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純太朗さんの体調は、その後落ち着いていた。
でも、私の前であんなあからさまな態度をとってみせたにもかかわらず、彼は何か言う訳でもなく、いつも通り穏やかな表情をしている。
私がソファに腰を下ろすと、純太朗さんは膝の上にその鼻面を乗せてくる。
それはいつものことだけど……。
私は慌てて立ち上がる。
ブラウンの瞳が驚いたようにこちらを見上げてくる。
「……じゅ、純太朗さん。あんな事をしておいて、それはあまりな態度というか……。私は純太朗さんから何も言い訳を聞いてないですよ」
純太朗さんは可愛らしく首を傾げる。
真っ直ぐこちらに向けられる瞳は、いつも通りキラキラと輝いていて、後ろめたさは欠片も見受けられない。
「私はとてもショックを受けました。あんな、あんな恥ずかしいこと、私の目の前で……」
「クゥン」
純太朗さんが悲しそうに鼻を鳴らす。
「えっ? 純太朗さん今何と言ったのですか?」
「クゥーン」
「すみません。聞き取れませんでした。もう一度言ってください」
「ワゥン」
背中の辺りを何か冷たいものが伝う。
「純太朗さん、ふざけないでください。いつものように、私にわかるように……」
「ワォン、ワン」
けれど、何度聞いてみても純太朗さんの発する声は、私の中で意味のある言葉とならなかった。
純太朗さん、どうしたと言うの?
私達はあんなに心通じ合っていたというのに……。
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