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「純太朗さん、私また一回戦負けしてしまいました。もう、卓球はやめた方が良いのでしょうか」
「ウォン。ワオン、ワン」
純太朗さんの言葉に、私は思わず足を止める。
「……そうですよね。私、忘れてました。卓球は勝つ為ではなく、楽しむ為にやっていたんでしたよね」
私はそのふかふかの首元に抱きついた。
「さすが純太朗さん。ありがとうございます」
純太朗さんがその鼻面を私の肩に乗せると、彼の温かい息が耳たぶを優しくくすぐっていく。
「ただいまー」
玄関のドアを開けると、キッチンの方からお母さんの声がかかる。
「裕菜、だんだんと日も短くなってくるんだから、遅くならないようにするのよ」
「はーい」
「いくらタロがいるからって油断しちゃダメよ。変な人もいるんだから」
「お母さん、タロなんて犬みたいな呼び方やめてって言ってるでしょ。純太朗さんは、私の大事な彼氏なんだから」
私が抗議の声を上げると、お母さんは困ったような顔をしてみせた。
「うわっ、出た。ヤバいヤツ」
弟の宏樹は私と純太朗さんに対して、いつもバカにしたような態度をとる。
きっと自分には彼女がいないから妬んでいるんだろう。
「宏樹、余計なこと言ってないで、勉強しなよ。来年高校受験でしょ?」
「うっせーな」
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