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キリリと全身の毛穴が引き締まるような空気が全身を覆う。
日中はまだ陽射しの暖かさを感じられるものの、この時間、パーカー1枚ではもう堪えるようになってきた。
「純太朗さん、やっぱり朝早いと寒いですね」
「ウォン」
私達は今日、いつもより30分早く家を出た。
暗くなるのが早くなってきたので、夜のお散歩デートは早めに切り上げて、その分朝のお散歩デートの時間を長くする為だ。
朝デートはいつも近くの川原まで足を延ばす。
濃紺とブラックのスポーツウェアを着た男性が私達を追い越していく。
そして……。
「おはようございます!」
「……おはようございます」
正面からやってきた中年の女性が笑顔で声をかけてくるのを、視線を落としてやり過ごす。
私の足元を可愛らしい豆柴が通り過ぎて行った。
私はこれが地味に嫌なのだ。
元々、初対面の人と話すのが苦手だし、何よりも私のことを純太朗君のママとか呼んでくるのが耐えられない。
私は純太朗さんの彼女であり、ママなんかじゃない。
何でも見かけで決めつけないでほしい。
それに純太朗さんはもう5歳だ。
人間でいうと30代後半。君呼びなんておかしいんじゃないかと思う。
それでも朝の河原は散歩をしている人も多く、どうしても何人かとすれ違う。
気がつくと、純太朗さんが何やら鼻をヒクヒクさせている。
視線を向こうにやると、白と黒の毛を美しくなびかせながら1匹のボーダーコリーがやってくるところだった。
おそらく相手は純血種。
スタンダードな白黒柄の毛色は艶々と美しく、こちらに向かってくる足取りも軽やかだ。
保護犬譲渡会のスタッフからは、純太朗さんはボーダーコリーのミックスだと伝えられていた。
でも私は、白地に赤茶と黒の純太朗さんが世界で1番綺麗だと思っている。
「おはようございます」
連れている女性の言葉に、私はぺこりと頭を下げる。
ツンと澄ました表情のまま、相手のボーダーはすっと通った鼻面をこちらに向けてくる。
そしてすれ違いざま、そのブラウンの瞳が純太朗さんに艶めかしい視線を投げかけたように見えた。
えっ……。
いつもだったら、他の犬にも人間にも一切興味を見せない筈の純太朗さんが、その姿をゆっくりと振り返る。
土手の上を優雅に歩を進める彼女は、こちらを振り返ることなく静かに歩き去っていった。
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