くちづけスノウアンサー

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 本当、白馬に乗った王子様じゃなく、“アッキー命”と書かれたピンクの羽織りにサイリウムを腰にかけている王子様だなんて、色々と理不尽だ。心底思う。しかし、きちんとお礼は言わないといけない。そう思い、オタクたちが驚いて去って(家永もドのつくオタクのようすだが)二人きりになり、繁華街の人たちが「あれ、アッキーとまさるん(俳優のあだ名)じゃない?!」「かわいー! かっこいい……でもなんでオタク?」などと声がする中で、ありがとう。家永。そうお礼を言うと、家永は余所を向いて赤くなりながら。 「お前がキレたら刻むだろ、あいつら。助けてやったんだよ」  けどまあ、礼儀とマナーを弁えないヤツは、同じファンとして許せねぇだけだ。そう言ってツンデレを発揮していたわけであるが、奈月は彼がまさるんにそっくりだなどということを先ほど知ったせいか。彼を見つめていて、急に鼓動が加速してゆくことを感じ、マジで? ――と、その感情を心底疑った。  結局帰りは家の傍まで送ってもらうことになり(家に来たらオタク姿に母がビビるゆえ)、何故そんなにも難易度高いカッコしてんの、と問いかけると、この傍のアリーナでライブがあったんだよ。と、言っていた。普段はラフでこ洒落た私服で、クラスの行事の打ち上げなどに参加していた彼だが、彼曰く、ライブの時は思い切り弾けておきたいらしい。この羽織、大坪に手伝ってもらって作った。そう言われた時は、世の中には色々な嗜好を持つ人間が居るのだなぁと感じたが「結構いいかもね」と頷いて笑ってしまった。もちろん、良い意味で。
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