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「……りんごの匂いがしていたって言うから、まずは定番のアップルパイを作ってみたよ」
二時間後、ひたきが焼き上がったばかりの一品目をヒバリの前に置く。
まだ熱々のパイ生地から香る、りんごのほのかな甘酸っぱさ。卵黄でコーティングした表面はつやつやと輝き、見ているだけで喉が鳴るようだった。
本来ならここにバニラアイスを添えて、アイスの冷たさとパイの熱さのギャップを楽しんでもらったことだろう。
だけどこれはあくまで味見、飾り付けたい気持ちはぐっと堪えるようひたきにお願いした。
ザクザクとナイフで切り分けてやると、ヒバリはおぼつかない手つきで大きなひと欠片を口に運ぶ。
彼は口いっぱいに広がるりんごの甘さに表情を蕩けさせたが、反応は微妙なものだった。
「うーん……。違う、と思う」
「思うって……曖昧な反応だなぁ」
「すまないな。似ているとは思うんだが、なにかが決定的に違うんだ」
優柔不断な答えに僕とひたきは困り果てる。この調子でうまくいくのだろうかと眉をひそめたが、つぐみだけはポジティブに次のりんごへと手を伸ばした。
「悩んでいても仕方ないよ。次のメニューに挑戦しよう!」
確かに、ここで意見を出し合っていても仕方ないかもしれない。
だけど、これはかなり過酷な戦いになりそうだと、時計を一瞥して思うのだった。
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