01・泣き子さんとドッペルゲンガー

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01・泣き子さんとドッペルゲンガー

 学校の事務員の仕事といえば、皆はどんなものを想像するだろうか。  施設の管理。文書の受付発送。物品購入や各種申請書の発行、時には生徒や保護者の応対など。もちろん学校によって違いはあるだろうが、基本的な業務はあまり変わらないだろう。  だけど勤務場所によっては、一介の事務員には荷が重すぎる業務を追加で押し付けられてしまうこともある。  それは例えば──「幽霊を泣き止ませる仕事」だったり。  ぐすぐすと響き渡る泣き声に溜息をついてから、大きく息を吸い込む。  対峙するは、校舎の一角にある女子トイレ。薄暗いその中から聞こえてくる嗚咽に向かって、僕は嫌々声をかけることにしたのだった。 「泣き子さん、泣いてないで出てきてよ。このままだと話ができないよ」  しかし、聞こえていないのか無視しているのか、少女の声はしゃくりあげるばかりで応えてくれない。  立場上女子トイレに入るわけにはいかないし、このまま入口に陣取って呼びかけ続けるしかなさそうだった。  背後では、授業を終えたらしき生徒達が忙しなく行き交っている。「女子トイレの前で声を張り上げている男」といういかにも不審な状況になってしまっているが、幸いにも、彼らが訝しげな目を向けてくることはなかった。なにせ、泣き子さんがこうしてトイレに立てこもるのはよくあることなのだから。  ……もっとも、生徒達の「事務員さんも大変だなぁ」という生暖かい眼差しもそれなりにこたえるのだが。 「……泣き子さん、お願いだから。なにがあったのか聞かせてくれないかな」  内心げんなりとしながら再度声をかければ、ようやく泣き声が止んだ。  一拍置いて、重たいなにかが這いずる音が響き渡る。  やがて暗闇から青白い手が浮かび上がって、リノリウムの廊下を引っ掻いた。  うう~……、ううううう~……  地の底から轟くようなうめき声と共に、長い髪を引きずった少女がトイレから這いずり出てくる。 「な、泣き子さん……」  ホラー映画も真っ青な演出に顔を引きつらせれば、ヘビのようにのたくる黒髪の隙間から三白眼が覗いて。  女子トイレの主は、顔をべちょべちょにさせて泣きじゃくるのだった。
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