12・甘味探偵

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「お菓子の再現をするなら、これが一番手っ取り早い方法だよね」  調理室のテーブルに並べられた菓子作りの材料を見渡して、つぐみがエプロンを着用する。  冷凍のパイシートや出来合いのスポンジ。りんごの山。その他ボウルや泡だて器もろもろ。  基本的なお菓子作りの材料は全て揃え、ご丁寧にオーブンまで熱している準備の良さに、僕とひたきは戸惑ってしまった。 「これ、本当に使っても大丈夫なのかい? 校長先生から許可はもらったって言っていたけれど……」  ひたきが恐る恐る尋ねれば、ぱちんとウインクが返ってくる。 「大丈夫大丈夫♡ ちゃーんと了承はとってあるよ。『スクールカウンセラーという立場として、どうしても彼の悩みに応えてあげたいんです……!』ってお願いしたんだぁ」 「さてはまた泣き落としをしたな……?」  ちっとも悪びれないつぐみの態度に頭が痛くなる。  あの校長は何故かつぐみ達兄弟に甘い。変わったものが好きなので、きっと四つ子である彼らのこともお気に入りなのだろう。それにしたって、甘やかし過ぎな気もするけれど。  あとで僕からもお礼を言わなくちゃ。なんだか胃まで痛くなりそうだと思っていると、気を取り直したひたきがヒバリに手順の確認をした。 「じゃあ、これから僕達がお菓子を作っていくから。それが思い出の味に近いのかどうか判断してくれ」 「わかった。よろしく頼むよ」  元気よく返事をして、ヒバリはフォークを構える。  一人だけ席に着いた彼の役目は、僕達が作るスイーツが思い出の味に近いかどうか判断することだ。早くも期待で胸がいっぱいなのか、彼は行儀悪くフォークを打ち鳴らしていた。  ひたきの号令に倣って、僕も準備を始める。  何個もお菓子を作るなんて気が遠くなるほど大変そうだが、三人も居れば少しは楽に進むだろう。そう希望的観測をしながら、僕はつやつやのりんごを手にとるのだった。  
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