12・甘味探偵

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 結論からして、お菓子の再現は惨敗だった。  ひたきが思い付く限りのりんごのお菓子を作ってくれたたのだが、結果は全て「否」だったのだ。  オーソドックスなりんごのタルト。たっぷりのりんごとラム酒を使ったアップルクーヘン。ナッツにも似たザクザク食感に仕上がったアップルクリスプ。  アップルパイに似ていると思うものは全て試してくれたのだが、努力は失敗に終わった。 「うーん、これも駄目かぁ……」  食べかけのアップルクリスプを下げて、つぐみは肩を下げる。  外は既に真っ暗。このままお菓子を作り続ければ、あっという間に夜が明けてしまうことだろう。  さすがに僕達も疲れてきてしまって、甘い匂いが充満する中床に崩れ落ちてしまう。 「すまない。僕も心苦しくはあるんだが……」  本人も気に病んでいるのか、ヒバリはしょぼんと俯いた。別に謝ることはないと告げつつも、このままでは埒が明かないと焦りが生まれてしまう。 「……ねえ、他になにか情報はないの? もう少し絞り込めば、なんとかなるかもしれないけど」  つぐみが尋ねれば、ヒバリは渋い顔で考え込んだ。どうやらあまり菓子類には詳しくないようで、自分でもピンとこないらしい。  それでも必死に記憶を探ると、苦し紛れにこんなことを言い出した。 「……やっぱり、最初に食べたアップルパイが一番近いと思うんだ」 「でも、アップルパイではなかったんでしょ?」 「ああ。だが、りんごの食感が違うというか、パイ生地の包み方も異なっていて……。自分でもうまく言えないな」  すまない、ともう一度謝るとヒバリは再び俯いてしまった。大した情報が得られず、僕達も疲労で項垂れてしまう。  だがそんな中で一人だけ、元気を取り戻した人物が居た。 「……待てよ。一つだけ試していないものがある」  ぱっと上がったひたきの顔には希望が浮かんでいた。  なにか良いアイデアを思いついたのかと飛び上がると、彼はエプロンの紐を結び直してもう一度テーブルに向き直る。 「アップルパイに似ていて、アップルパイにあらず。そんなお菓子が一つだけあるんだよ」  意気揚々とりんごの皮を剥き始めるひたきを見て、僕とつぐみも大慌てで手伝うのだった。
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