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「ピアノ弾けるなら弾いて欲しい曲があるんだけどなあ。知ってる? カメムシの歌」
それを聞いただけで寒気がした。
「さ、さあ……」
太郎君がいつの間に捕獲したのか、バッタを両手に持っていた。
「おんぶバッタだな」
一ノ瀬君は顔が引きつる私の代わりにタブレットで写真を撮った。
「やりたいと思った時にやれば良いんじゃない?」
一ノ瀬君はくるりと振り返って私の心を見透かす様に言った。
「……うん、ありがとう」
「亀田、今日は俺が付き合ってやるよ」
「やった! 一ノ瀬も入ってくれよ。帰宅部だろ」
「俺、花粉症でさ。真冬以外ダメなんだ」
そう言ってわざとらしくマスクをした。
「ちっ」
「ちって。ガラ悪いぞ」
「中村さん、明日の昼休みか放課後、空いてたら手伝ってよ」
「分かった。じゃあ、帰るね」
太郎君の嘘のない笑顔に胸がチクリと痛んだ。二人に背を向け、そっとシャツの袖をまくる。寒風摩擦するみたいに手で擦ると鳥肌は無くなった。
「今日は割と楽しかったでしょ?」
こうなったのには理由がある。
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