君に偏愛

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 小学生の頃、クラスの男子に虫嫌いであることを執拗にからかわれた。きっかけは虫かごのバッタやコオロギを見て、ひどく狼狽えてしまったことだ。それがダンゴムシやムカデに変わり、私だけではなく他の女子達も本気で嫌がる様になった。男子達にとっては軽い気持ちでやったことなのだろう。理由を聞かれた先生には、みんなが喜んでいると思ったからと悪びれずに言った。  その男子生徒は太郎君と決定的に違うところがある。彼は虫かごから出したムカデに向かって石を投げていた。叱られた原因が自分ではなくムカデにあるかの様な素ぶりに私は腹が立った。あの時、全身に広がった鳥肌と嫌悪感はムカデにではなく彼に対してだったと思う。久しぶりに思い出した顔は酷く歪んでいた。  朝、熱があるわけでもないのに何だか身体が重い。 「なんでも良いから食べなさい。昼まで持たないわよ」 「うん」  シリアルに牛乳をかけ、もそもそと食べ始めると、お母さんが少し笑った。 「何、笑ったりして」 「もしかして、学校に行きたくないの?」 「……何で」 「小学校の何年生だっけ、いっとき毎日そんな顔してたから」 「別に、いじめられたりしてないから」
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