君に偏愛

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「おはよう」 「あっ、中村さん、おはよう」 「何か見つかった?」 「うん。イチモンジセゼリ」  虫取り網の中から茶色の目の大きな蝶を取り出して見せてくれた。 「羽に白い模様が一列に並んでるでしょ?」  白い斑点が四つ綺麗に並んでいた。 「それでイチモンジなんだ。面白いね」  くりっとした目も可愛かった。 「面白い?」 「うん。今まで見ようと思わなかったし、知れて良かったなって」 「実はちょっと誘い方が強引すぎたかなって思ってたんだ」 「そうなの?」 「うん。中村さん、ピアノ習ってるって知って余計にね。でも、誰でも良かったわけじゃないんだ」 「えっ」 「中村さんは僕がやってること、一度もバカにしたことないでしょ?」 「それは……」  誰に何と言われようと好きなことに打ち込んでいる太郎君が羨ましかった。だからこそ、虫嫌いだと告白して嫌われたくなかった。 「でも、ごめん。一ノ瀬から聞いちゃった」 「えっ」 「虫嫌いだったんだよね。なのに、はしゃいで、中村さんの気持ちを無視してた。虫だけに……いや、ごめん」  後頭部のぴょこんと跳ねた寝癖を撫でたい衝動を抑える。
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