君に偏愛

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「ううん。私こそ正直に話さなくてごめん。小学校の時、男子にからかわれて虫嫌いが酷くなったの。でもね」  そっと、シャツの袖をまくる。トンボやイチモンジセゼリを間近で見ても鳥肌は立っていない。 「びっくりした。虫好きになって虫のタトゥーでも入れたのかと思った」  太郎君はあははと声を出して笑った。 「えっ! 違うよ!」  私も太郎君の盛大な勘違いに思わず吹き出す。 「だって思わせぶりに腕を出すからさ」 「そっか、そうだよね」  太郎君はひとしきり笑って、 「でも、中村さんの中で何か変わったんだったら嬉しいな」と、微笑んだ。 「おーい、良い雰囲気出してる場合じゃ無いぞ! 授業始まる」  一ノ瀬君が小走りに玄関に入って行った。 「中村さん、急ごう」 「あっ、あのね、今日の帰り一緒に行ってほしいところがあるんだ」  太郎君がちょっと首をかしげて、良いよと笑った。    放課後、太郎君を連れて線路沿いを歩いていた。 「ここで黄色のトンボを見たんだ?」 「うん。見たのは家の前でなんだけど。ごめん、もういないかも」  太郎君はタブレットで周辺地図を見て頷いた。  「いや、いるかもしれないよ」
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