君に偏愛

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 太郎君は当然だと思っているのか、キョトンとしている。そのあどけない表情もグッとくる……じゃなくて、やっぱり教室にカメムシがいるのは耐えられない。いつ爆発するか分からない爆弾が教室にあるのと同じだ。それは、他の女子も同じらしく遠目でこちらの様子を伺っていた。 「うーん。こんなに可愛いのに。ねえ、中村さん」  急に振られて慌てて笑顔を作る。彼の前では、決してカメムシの柄が気持ち悪いなどと言ってはいけない。 「へえ、すごいな中村さん」 「だろ?」  二人の真っ直ぐな目が眩しすぎる。 「いや、そんなすごくなんか」  それに、女子達の視線が刺さって痛い。太郎君は誰にでも優しくて、努力家で人懐こい笑顔がクアッカワラビーみたいに可愛くて、少し寝癖がついた後頭部はハシビロコウみたいでキュートだ。密かに太郎君に想いを寄せている女子は多い。私だってもっと太郎君と仲良くなりたいと思ってるけど、その前に高いハードルが立ちはだかっている。 「じゃあ、中村さんならなれるんじゃない?」 「え? 何に?」  一ノ瀬君は同時に疑問を口にした太郎君と私を見て、にやりと笑った。
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