君に偏愛

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「ほら、息ぴったり。『虫を愛でる』部、まだ部長一人なんだろ?」  それを聞いた太郎君は目の色が変わった。私は嫌な予感で胸がいっぱいになる。 「どう? 入部する気無い?」 「いや、その。私に愛でられるかな」 「大丈夫だよ。中村さん、僕が捕まえた虫を見ても一度も気持ち悪いなんて言わなかったじゃない」 「な、なるほど」  言い訳が思いつかず、目が泳いだ。 「気持ち悪い虫もいるけどな」  一ノ瀬君がそう言うと、太郎君の目が吊り上がった。 「気持ち悪い虫なんかいない」 「悪い、そんな怒るなよ。そう思うやつもいるって話だって」  太郎君の唯一の欠点、それは虫を愛するあまり、虫嫌いを嫌う。いや、憎むと言っても過言ではない。 「私も苦手な毛虫とかいるよ? 全ての虫を好きになるなんてやっぱり無理かも……」  太郎君が今まで見た中で一番優しい笑みを浮かべ私を見つめた。     太郎君と私二人だけの部活動だなんて、考えただけでよだれが出……緊張するではないか。 「どうかな、少しずつ興味を持ってくれたら嬉しいんだけど」 「なるべく、好きになれたらなって」  心にもないことを言ってしまい、すぐに後悔した。
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