君に偏愛

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 網で捕まえることは攻撃に当たらないのだろうか。大丈夫だと言われるほど不安になる。 「お腹のあたりをそっと持ったら大丈夫。持ってみる?」  無言で首を横に振る。 「中村さんなら何でも捕まえられる様になるよ」  一体どんな根拠でそんなことを言うのか不思議だ。 「元気だなあ」  太郎君の日に焼けた指で挟まれたカマキリは釜を振って抵抗していた。 「撮れそう?」 「う、うん」  カマキリはカメムシよりは親しみやすい姿をしている。色んな方向から写真を撮りまくる。 「こんな感じ?」 「今まで一人だったから出来ないこともあったんだよね。だから本当に助かるよ」 「大袈裟だよ」  太郎君がカマキリを花壇のヘリに下ろすと、カマキリがゆらゆらと釜をもたげて威嚇した。いつ飛んで来るか分からなくて写真を撮っている間、冷や汗が出た。太郎君が何かを言いたげに私を見つめているのを背中に感じる。熱い言葉をかけられるんじゃないかと期待してしまう。 「写真撮るの……下手じゃね?」 「え?」  振り向くと冷やかしに来たのか、一ノ瀬君が後ろからタブレットを覗き込んでいた。 「めっちゃブレてるじゃん」
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