追加エピソード①春の身支度

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 鼻息荒く、興奮してミアは言う。 「春の日には、ロニー様もいらっしゃるんですからね!」  ミアが何気なく放った言葉が、エファリューを立ち上がらせる呪文になった。 「そうよ。ロニー卿には、わたしの一番を見てもらわなくちゃ! ……だけど、困ったわ。わたしってば、何でも似合っちゃうもんだから、どれもこれもが一番なのよねぇ」 「でも、好きなお色くらいございますでしょう?」 「好きな……」  染色見本をめくれば、手元に虹の橋が架かる。  ふと手に触れた清い色に目を引かれ、そこで虹を捕まえた。侍女たちに示したのは、流れる清水を思わせる明るく柔らかな水色だ。 「これ」 「まあ、素敵。春めいて、お似合いですわ」 「ですが、意外ですわ。エファリュー様はこちらの……落ち着いたラベンダーなどが、お好みかと思っておりました」 「あら、そう? まあ、わたしも特に意識したことはなかったけれど……、そうねぇ。思い返せば、昔から好きなんだと思うわ」  うんと小さい頃、初めて結んだリボンも水色だった。川で戯れたケルピーも、空を映した澄んだ色。唯一無二の相棒フューリだって、水色だ。 「きっと運命の色なのね」  ◇ ◇ ◇ 「お嬢様もようやく乗り気になってくださって」 「素敵なドレスに仕上がりそうでよかったですわ」 「さあ、ミア。今日から寝る間もございませんからね」 「はっ、はいっ!」  ミアは布地を片付けに、お姉様方と別れた。  ワゴンはずっしり重たいが、娘の夢が詰まった宝箱だ。片付けさえキラキラと目に楽しくて、苦ではなかった。  見本を片した後は、ドレスに仕立てるための厳選した生地をワゴンに積み直す。  収納庫から戻る途中で、前方からアルクェスがやって来るのに気付いたミアは、廊下の端で面を伏せて彼が通り過ぎるのを待った。  すれ違い様、ミアはふと気になって、彼の横顔を覗き見た。  真っ直ぐ前を見据えた空色の瞳。その色合いが、エファリューの選んだ見本によく似ている。 ──きっと、運命の色なのね。  そう呟いた姫の穏やかな微笑みを思い浮かべ、年若い侍女は一人胸をときめかせるのだった。 「春の身支度」 終. 𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
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