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アルクェスにとっては天井板、エファリューにとっては床板を外して出来た出入り口から、動物のように顔を出して、エファリューは階下を覗き込む。
寝台にアルクェスの姿はなく、隣の執務室から明かりが洩れている。昼間はエファリューの躾に時間を割かねばならないため、溜まった雑務はこうして遅くまで起きて片しているようだ。
「アル?」
「どうしました」
声を掛けると、すぐに屋根裏を見上げに来る。それは、エメラダとしてかしずかれるよりもずっと特別なことのようで、エファリューは胸のむずむずがくすぐったかった。
「お願いを叶えてくれてありがとう」
「いいえ。まったく貴女は、不思議なひとですね……。覚悟していたとは言っても、思いも寄らぬ願いで、面食らいましたよ」
苦笑しつつも、楽しげに彼は見上げてくる。
「さあ。もうおやすみなさい。明日はいよいよ神殿に行くのですから」
「ええ、そうね……」
「これは珍しい、緊張しているのですか? 大丈夫ですよ。今日より少し力を抜いて、淑やかにしていれば十分通用するでしょう。さあ、お眠りなさい」
「待って、もうひとつだけ、お願い」
「なんです?」
「また、頑張ったね、偉いねって……わたしを褒めて……」
いつになくごにょごにょ言うと、噛み殺した笑い声が返ってきた。
「そんなことは、お願いに入りません。よく頑張りました。偉いですよ、エファリュー」
満足そうに笑んで、エファリューは天井に空いた穴から顔を引っ込めた。
屋根裏の寝台が軋む音が聞こえるまで、アルクェスは天井を見上げて微笑んだまま、しばしその場に留まっていた。
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