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窓のない屋根裏は、天井板を閉め切ると深い闇に包まれる。しかし闇はエファリューの敵ではない。さすがに本を読むのは無理だが、動く分には夜目も効くので、特に不自由はなかった。
アルクェスの気配が隣室に移ったのを確認し、寝台に横たえた体を起こすと、エファリューは寝間着のリボンを解いた。絹の衣が肌を滑り、闇に吸い込まれるように静かに床へと落ちる。
「……ふう、さすがにかぶれちゃったわね」
まさらな背中の、羽根のように広がった骨の辺りに手を伸ばす。角のないよう研かれた爪で肌を搔くと、ぺろりと皮膚がめくれた。いや、皮のようなものが剥がれたと言うのが正しい。
肌と同じ色の糊のようなものを固めたそれが剥がれた後には、エファリュー自身の皮膚が顔を出した。搔痒感に疼く肌は、紅く熱を持っている。
夜逃げ時に持ち出した荷物から、痒み止めの軟膏を出し、痒みを抑え込むように塗り込んだ。
もし、ここに月明かりが差していたのなら、エファリューの瑞々しい肌にその光を滑らせ、彼女の背に眠る秘め事を露わにしていたことだろう。
エファリューの背には、蝙蝠に似た黒い翼が羽根を広げている。その羽根は、漆黒の墨で肌に刻まれたエファリューの過去だ。
「エヴァ……とは、よく言ってくれたわねぇ……」
エファリューは小さく笑う。
悪しき心を持つエヴァの子に生えるという、黒き翼。その本来の意味を知る者は、共に秘密を抱え生きた師もいない今となっては、この世にエファリューただ一人だ。
かつて魔人と呼ばれ、闇に生きた魔法使いの一族。その頂点に立つ者は、漆黒の刺青を背に負ったという。親から子へ、王の座と羽根は受け継がれる。
エファリューの羽根も、父から受け継がれるはずだった王位の証である。
神女の威光に照らされ、滅んだ魔人の国。その最後の王が、彼女の父。
エファリューはまさしく、エヴァの子なのだ──。
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