六畳一間の平穏

4/5
前へ
/197ページ
次へ
 エヴァの右腕で、王女の教育係であった宮廷魔導士に手を引かれ、戦禍の中を亡命し……忍び生きた。  いつの日か必ずや祖国を再興せよとの──背に負った翼の囁きを頼りに、血の滲むような修行にも堪えた。  機を見よ、急いてはならぬという師の言葉に応え、肉体の時間を捻じ曲げる呪いを己にかけた。  そして師は、最期の時に言ったのだ。 『エファリュー、わたしはお前を騙していた。あの日、絶望の淵に立ったお前に、生きる意味と力を与えるために、エヴァの遺志を利用したのだ。わたしが親心から望むのは、国の再興などではない。ただお前が穏やかに生きてくれることだけだ。随分と、平穏とは無縁の日々を送らせてしまったが、わたしの厳しい修行に堪えた姫だ。どんなところでも暮らしていけるだろう。エファリュー、今日まで本当によく頑張ったな……』  それから今日まで、祖国の名も忘れるほどの、悠久の時を生きた。  祖国の再興を諦め、師の望む平らかな暮らしを求めた。その間、師の真似をして、魔導師として人を育てた時期もあった。他にも薬師として貧しい人々を助けるなど、今とは比べ物にならないほど、エファリューは活動的だったのだ。  王族の誇りにかけて生き延びた彼女が得た、ただの人としての生き方は、新鮮で楽しかったのは間違いない。  しかし、それも初めのうちだけだ。己でかけた呪いを解く術がないエファリューに与えられた時間は、あまりに長大であった。  死を選ぶこともできないまま、飽きるほど穏やかな日々を送った結果──。  働きたくない、楽して暮らしたい、一攫千金のエファリューが生まれたのである。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

162人が本棚に入れています
本棚に追加