初めてのお仕事

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 門及び神殿周辺は、法衣の下にプレートなどを当てて武装した僧兵が、錫杖片手にきびきびと警戒に当たっていた。  彼らは、馬車から降りる姫の両脇に壁を築くように整列し、神殿内へと道を引く。 『背筋を伸ばして。きょろきょろしない』  耳飾りから、頭の裏側へとアルクェスの声が澄み渡る。  鼻から吸った空気を胸に留め、ぐっと腹に力を込めると、エファリューは真っ白な靴で一歩を踏み出した。  神殿内は、丸窓から降り注ぐ上天の光と、静謐な空気で満たされていた。信者が列を成しているにも関わらず、祈りを捧げる声の他は息づかいさえ消えてしまったようだ。  広々とした礼拝堂の中心には、床を四角く切って水が張られている。水には、花を模した硝子の器が浮かべられ、その中で揺れるのは蝋燭の炎だ。ゆらゆら踊る花弁が、光と影を水鏡に映して幻想的だ。  信者の列は、水面に架かる石橋を渡り、奥にある祭壇へと繋がっている。水辺の脇には、神官が斜向かいに四人ずつ並び、橋を行き交う信者たちを見守っている。時折り、決まった動きで錫杖を振る。その一糸乱れぬ動きはどこか儀式めいていて、厳かな空間をいっそう際立たせていた。  白く、光沢のない床石にエファリューが一足進めるたびに、神聖な空間に神女の訪れを告げる靴音が木霊する。一斉に視線が向けられてどきまぎする内心を、つんと反らせた顎で誤魔化す。そしてエファリューは事前に教えられた手順に従い、水辺の脇を通って祭壇の裏手へと進んだ。エメラダらしく、しずしず……と。
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