初めてのお仕事

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 祭壇の裏、桟敷のように一段高くなった場に神女の座はあった。笠木や肘掛け、座枠など細部に至るまで、繊細な透かし彫りの花が咲く意匠を凝らした椅子だ。くすみ、所々剥がれた金張りが歴史の長さを物語っている。 (これに比べたら、エヴァの玉座なんて、石を穿っただけの簡素なものだったわ。まぁ、石は石でも金剛石ですけど?)  顔も知らぬ初代神女に、意味のないマウントを取って、深い緑のベルベットの座面に腰を下ろした。神女の怒りに触れ上天の雷が下るのではないかと、わずかに身を固くしたがそんなことはなく、硬さと軟らかさのバランスが取れた座り心地のいい椅子にすっかり魅了された。  ゆったり息をつくと、頭にアルクェスの叱咤がとんできた。 『姿勢を正して前を見なさい。祭壇を開きますよ』  はっとして言われた通りにすると、目の前の錦の帷が開かれ、祭壇に祈りを捧げる信者たちを見渡せるようになった。礼拝する側から見たら、エファリューは祭壇に飾られた像のようだ。  静かだった礼拝堂が俄かに沸いた。しかしすぐに祭壇に近い者から跪拝を取って、歓声の波は引く。少しして神官らが息を合わせたかのように錫杖を鳴らすと、彼らは起き直り改めて列を作った。  喜色を浮かべた顔に、神女への信心が見て取れる。彼らはエファリューに祈りを捧げ、時に願いや苦悩を呟いていった。  初めのうち、エファリューはただぎこちなく彼らを見下ろしていた。耳飾りのせいで、さぞアルクェスがああしろこうしろとうるさいのではと覚悟していたが、居住まいを正して上品にしていれば、それだけで神女の体裁は取り繕えているようで、案外静かなものだった。
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