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「ボク……が」
「ん?」
柊は、その子ダヌキの次の言葉を待った。が、続かない。そもそも声が小さい。
「たぬオがあんたを見つけたんだ。森の外れで」
代わりに、たぬオと呼ばれた子とよく似た背の高いタヌキが言った。
「オレはたぬ壱。こっちは弟のたぬオ。しゃべるのあんまり上手くないんだ」
たぬオは兄の陰に隠れてしまった。
「内気なんだな」
「そうさ、弱虫なんだ」
「内気は弱虫と違うだろ。黙って行動する奴もカッコいいよ」
柊の答えに、自分でけなしたくせにたぬ壱は嬉しそうになった。たぬオが顔を半分のぞかせる。
「たぬオ君は恩人だ。俺にはギターしかないから、お礼に歌を聴いてくれ」
柊は弦を弾き、曲を奏で始めた。連なる和音に乗るハスキーボイスは美しかった。たぬオもたぬ壱も、物珍しげに集まった子供達も、身を乗り出して聴き入った。
「魔法みたいだな」
「あのカールした前髪もカッコよくね?」
一瞬で子供達の目に柊への憧れが灯った。歌い終わると柊はたぬオの頭を撫でた。その殊更の感謝に子供達は唇を突き出した。
「大体たぬオ、あんな村外れで何してたんだ」
「泣き虫たぬオ、まーた泣いてたんか」
「ち、ちが……」
「じゃあ何してたか言ってみな。ウジウジいじけてたとか宿題できなくて捨てたとか」
「おい早稲! 弟をいじめるな!」
ズケズケ言ってくるのは早稲と呼ばれた少年だ。少しも同意を煽らないのに、妙に周りを同調させる力がある。
「図星をついただけさ。つまりありのまま。それが一番大事って学校で習ったろ」
薄笑いを浮かべて早稲は歩き出した。ついていく子らは多い。たぬ壱は小石を蹴り飛ばした。
「ヤな奴!」
「お前らタヌキだろ。化けて出てやったら?」
「それ、ダメ……」
「村のしきたりで『ありのまま』以外はNGなんだ」
「へえ」
柊は意外そうに瞬いた。
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