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20年以上かかった。
この村の林檎を全国に注目させるまで。品種改良や遺伝子組み換え、販路拡大。特産のブランド林檎として認められるまで。
日美子の家系は代々村長だった。でも父が早世、日美子が継いだのは未成年の時で全く自信がなかった。
それを「君なら出来るよ」と背中を押してくれた人が今の夫だ。運送業に就いている力自慢で、物理的にも精神的にも日美子を支え続けてきた。
林檎はその成果の一つ。
でもその前に。
この村にはタヌキと人間の共存、という特異な課題があった。
曽祖父から聞いた話だ。
そもそもこの村は、タヌキと少年がそれぞれの住処で騙され逃げてきたことに始まる。
そのタヌキと少年は固い友情で結ばれた。裏切らないことを誓い合って。それがしきたりとして定着していった。
「タヌキも人間も、お互いを化かさない、騙さない」イコール「ありのままで」。
そのしきたりを守り抜くこと。それが代々の村長の最重要事項だ。そうして今この村の平穏がある。
「ママまた出かけちゃったの? パパが今度帰るのは日曜日だし……」
食卓に着いた咲季は、誰もいないテーブルを見て鼻を鳴らした。
「旦那様は遠くまでお出かけの職業ですし、日美子様は村長ですから。お忙しいのですよ」
この家の使用人はタヌキである。料理人も庭師も運転手も。
「ママは良いわね。きれいで愉快で元気だもの。あたしなんか」
咲季は右手で頬をさすった。そこには大きな火傷の跡があった。
「お嬢様、今週末の栗拾い祭りには必ずと、日美子様が」
「行くわけないでしょ」
咲季は長い髪で頬を隠すと「ご飯要らない」と席を立った。
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