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柊が雑貨店へ入ると、店員がだるそうに「どもー」と言った。
早稲という名だったな。この前たぬオにいちゃもんつけていた奴だ、と思い当たった。
「あんた感じ悪」
「他の店員いないの?」
客から早稲に次々クレームがつく。
「いねーし。だからオレがこんなしがない店でバイトしてんの」
バーコードを通し、会計をする早稲の手際は悪くない。品の扱いや客への渡し方も丁寧だ。
「買うの、そんだけ?」
柊の番になると、やはり早稲の接客は悪い。柊はクスと笑った。
「何」
「もったいないと思って」
「は?」
「だって君、優秀なのに言葉一つで損してる。知ってる? 世の中には敬語とかクッション言葉ってのがあるんだよ」
「優秀? オレが? 何言ってんのオッサン」
「ですますつけるだけでも変わるぞ。要するに言葉の仮面だな」
早稲が子供ながらこんな店で働くのは病弱な父の代わりに一家を支えるため。仕方なくやっているバイトだった。
「んなの、使い方わかんねえし」
「間違ったっていいだろ。気持ちが伝われば客はいい気分で買い物が終わる」
柊はそう言って笑って出て行った。
「……あ、あざーっす、ますです――で合ってんのかな」
早稲は小さくつぶやいてみて……照れた。
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