拝啓、丘の上より

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「咲季、栗拾い祭り始まっちゃうよ」 日美子が咲季の部屋の扉をドンドン叩く。 「ママ1人で行けば。あたし興味ないもん」 日美子は遠慮なくドアを開けた。 「閉じこもってると世界が狭くなるわ。早く着替えて」 忙しなくクローゼットから学校の制服を出して差し出す。 「ママ玄関でずっと待ってるからね。咲季が来ないと村長も来なくて祭りが始まらないことになるわ」 日美子は早口でまくし立てると、とっとと出て行った。 「髪は三つ編みにまとめるのよ!」 もう玄関の外に出ているようなのに、そこからの声もしっかり届いた。 何も隠しちゃいけない。ありのままで。だって隠すのは騙すこと。 だから。顔に火傷の跡があっても髪やスカーフで隠してはいけないのだった。 それが、日美子が、この村が長い間大事にしてきたしきたり。それが平和を保ってきたのだと、村長として頑張って来た母をずっと見てきた咲季も、わかってはいた。 丘の上は盛況だった。 そこが栗拾いの山の入口。集まった大勢がアップテンポのギター音で踊っていた。リズミカルで激しいのに滑らかな音。心が弾む楽しい曲ばかり。 「生演奏?」 咲季は演奏者に目をやった。 「誰?」 「咲季は知らなかったわね。外から来た人なの。村を気に入ってくれて学校で音楽を教えることになったのよ」 自分とは違う、明るさだけを纏った人――咲季は日美子に隠れ、顔を背けた。
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