第9話 期待を破るも面白かったブレイズ

2/2
前へ
/112ページ
次へ
「いやぁ……痛かったよ、ジャックくん」  勝負はもうとっくについていた。  俺の圧倒的勝利。  タイフーン先生が積極的な攻撃をすることが許されていなかったにしろ、今回の勝利への感心の声は多かった。  スキルを使って風を起こし、渋い顔をしながら俺たちのところに戻ってくる先生。    怪我はなさそうだが、かなり痛そうだ。  もちろんタイフーン先生を崇拝する数名の女子生徒からは怒られた。 「先生にあそこまでする必要ないでしょ!」 「あれはさすがにやりすぎよ!」 「先生にお怪我がなくてよかったですわ」  はぁ。  結局こうなるよな。  ブレイズの目は燃えている。 「おい、おめぇ。剣もやるじゃねぇか」  今もなお挑戦的な目で俺を見ていた。  闘争心むき出し。だが今までの見下すような態度はない。そこには俺へのリスペクトも少し含まれているんじゃないかと、俺は思う。 「少しやりすぎた」 「あ? やりすぎた? もっとやりゃあよかったんだ。相手が先生だろうが、メラメラ燃やして灰にしちまえ」 「君らしい」 「うるせぇんだよ。オレは20秒でタイフーンを焼き焦がす」  ブレイズの声はいちいち大きいので、俺たちの会話はみんなに丸聞こえだ。 「スキルは使えないからな」  一応くぎを刺しておいた。  ブレイズなら躊躇なく炎を先生にぶつけそうだ。別に俺に関係のあることでもないが、ブレイズとは正々堂々と戦いたい。  不思議だ。  俺自身、あそこまで目立たないことにこだわっていたのに、今では誰よりも目立っている。  もっと不思議なのはそれが特に不快でもないことだ。 「そんなことくらいわかってる」  ブレイスは俺をしっかり睨んで、お前は敵だからな、ということを改めて伝え直すと、そのままタイフーン先生に近づいた。 「ブレイズくん、どうした?」 「次の相手はオレだ」  ***  ブレイズと先生の戦いはなかなか面白かった。  それも、剣術の戦いなのにブレイズはほぼ剣を使わないからだ。  殴る。殴る。とにかく殴る。  たまにスキルを使って炎を投げるが、先生が風でその都度消していた。 「オーマイガー、炎ボーイは剣が嫌いなんだってよ」 「これは剣術なのか……」 「一応剣握ってるし、間違いでもないからな」  かなり期待していたのに、いろんな意味でその期待を破ってきた。  結局ブレイズは先生に勝てず。  バカではないはずだ。  今まで4か月くらい過ごしてきてなんとなくわかる。  ブレイズは賢く、奇抜だ。  だが今回は必要のない奇抜さが大きく出た。 「ブレイズくん、今回の反省点はわかってるね?」 「炎が足りねぇ」 「違う。もっと基本的なことだ」 「火力が足りねぇ」 「……」  本人は特に笑いを意識したつもりなんてないだろう。  それでも周囲は笑わずにはいられないやり取りだった。  呆れてる生徒だっている。  氷のスキルを持つフロスト・ブリザードは、まさしく氷のように冷たい目でブレイズを軽蔑していた。  ***  それから15人全員の剣術の試験が終わり、結果発表の時間だ。  得点はタイフーン先生がいくつかの項目で細かくつける。  その点数に応じて順位がつく、っていうわけだ。  剣術の教師が採点すべきなんだろうが、1年生に構っていられるほど暇ではない、ということか。  なかなか基準がわかりにくい気もしたが、タイフーン先生なら納得のいく点数をつけてくれるだろう。  客席まで飛ばし、痛めつけたことで減点されてたりしてたら嫌だな。 「ジャックくん、すごかった。リリー、ジャックくんがそんな──剣が上手なんて知らなかったから……びっくりだよ」 「あ……ありがとう」  神様を見つめるような目で見つめられると、少し動揺する。  リリーは俺を圧倒するように褒め称えた。  しまいには手を握り、興奮した様子で「すごーい! すごーい!」って。  胸が俺に当たっていることも気にしてないのか。 「みんな、それぞれ面白い戦いだった。突風をぶつけてくる生徒もいれば、爽やかで綺麗な風を吹かせてる生徒もいた。いい風だったよ、みんな」  タイフーン先生の笑顔は女子生徒に刺さった。  眩しいほど白い歯。  風であおられる爽やかな緑の髪。 「やっぱイケメンだよなー、タイフーン先生」 「確かに」 「あ、そうか。おれもそういう風の男を目指せばいいのか。想像できるぜ。爽やかな風を起こす、イケメン男子生徒ゲイル」 「……ゲイルは今のキャラのままでいいだろ」 「え、やっぱり?」  からかうような顔で俺を見てくる。  さっきのは冗談だったか。  だが俺は頷いておいた。 「ゲイルはいいキャラしてる」 「嬉しいもんだなぁ、実は無能じゃない実力者ボーイ」  あだ名が長い。 「じゃあ、今回の剣術実技試験、トップ3の発表だ」  タイフーン先生が続けた。  少し緩んでいた闘技場内の空気も、このひとことで急に引き締まる。  ブレイズの目の中では炎が静かに燃えていた。その視線の先は俺だ。  だが……どう考えても今回のブレイズはトップ3に入ってないだろ。 「第3位の生徒は……ヴィーナス・エレガント! おめでとう! 美しい戦いだった!」
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加