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「いやぁ……痛かったよ、ジャックくん」
勝負はもうとっくについていた。
俺の圧倒的勝利。
タイフーン先生が積極的な攻撃をすることが許されていなかったにしろ、今回の勝利への感心の声は多かった。
スキルを使って風を起こし、渋い顔をしながら俺たちのところに戻ってくる先生。
怪我はなさそうだが、かなり痛そうだ。
もちろんタイフーン先生を崇拝する数名の女子生徒からは怒られた。
「先生にあそこまでする必要ないでしょ!」
「あれはさすがにやりすぎよ!」
「先生にお怪我がなくてよかったですわ」
はぁ。
結局こうなるよな。
ブレイズの目は燃えている。
「おい、おめぇ。剣もやるじゃねぇか」
今もなお挑戦的な目で俺を見ていた。
闘争心むき出し。だが今までの見下すような態度はない。そこには俺へのリスペクトも少し含まれているんじゃないかと、俺は思う。
「少しやりすぎた」
「あ? やりすぎた? もっとやりゃあよかったんだ。相手が先生だろうが、メラメラ燃やして灰にしちまえ」
「君らしい」
「うるせぇんだよ。オレは20秒でタイフーンを焼き焦がす」
ブレイズの声はいちいち大きいので、俺たちの会話はみんなに丸聞こえだ。
「スキルは使えないからな」
一応くぎを刺しておいた。
ブレイズなら躊躇なく炎を先生にぶつけそうだ。別に俺に関係のあることでもないが、ブレイズとは正々堂々と戦いたい。
不思議だ。
俺自身、あそこまで目立たないことにこだわっていたのに、今では誰よりも目立っている。
もっと不思議なのはそれが特に不快でもないことだ。
「そんなことくらいわかってる」
ブレイスは俺をしっかり睨んで、お前は敵だからな、ということを改めて伝え直すと、そのままタイフーン先生に近づいた。
「ブレイズくん、どうした?」
「次の相手はオレだ」
***
ブレイズと先生の戦いはなかなか面白かった。
それも、剣術の戦いなのにブレイズはほぼ剣を使わないからだ。
殴る。殴る。とにかく殴る。
たまにスキルを使って炎を投げるが、先生が風でその都度消していた。
「オーマイガー、炎ボーイは剣が嫌いなんだってよ」
「これは剣術なのか……」
「一応剣握ってるし、間違いでもないからな」
かなり期待していたのに、いろんな意味でその期待を破ってきた。
結局ブレイズは先生に勝てず。
バカではないはずだ。
今まで4か月くらい過ごしてきてなんとなくわかる。
ブレイズは賢く、奇抜だ。
だが今回は必要のない奇抜さが大きく出た。
「ブレイズくん、今回の反省点はわかってるね?」
「炎が足りねぇ」
「違う。もっと基本的なことだ」
「火力が足りねぇ」
「……」
本人は特に笑いを意識したつもりなんてないだろう。
それでも周囲は笑わずにはいられないやり取りだった。
呆れてる生徒だっている。
氷のスキルを持つフロスト・ブリザードは、まさしく氷のように冷たい目でブレイズを軽蔑していた。
***
それから15人全員の剣術の試験が終わり、結果発表の時間だ。
得点はタイフーン先生がいくつかの項目で細かくつける。
その点数に応じて順位がつく、っていうわけだ。
剣術の教師が採点すべきなんだろうが、1年生に構っていられるほど暇ではない、ということか。
なかなか基準がわかりにくい気もしたが、タイフーン先生なら納得のいく点数をつけてくれるだろう。
客席まで飛ばし、痛めつけたことで減点されてたりしてたら嫌だな。
「ジャックくん、すごかった。リリー、ジャックくんがそんな──剣が上手なんて知らなかったから……びっくりだよ」
「あ……ありがとう」
神様を見つめるような目で見つめられると、少し動揺する。
リリーは俺を圧倒するように褒め称えた。
しまいには手を握り、興奮した様子で「すごーい! すごーい!」って。
胸が俺に当たっていることも気にしてないのか。
「みんな、それぞれ面白い戦いだった。突風をぶつけてくる生徒もいれば、爽やかで綺麗な風を吹かせてる生徒もいた。いい風だったよ、みんな」
タイフーン先生の笑顔は女子生徒に刺さった。
眩しいほど白い歯。
風であおられる爽やかな緑の髪。
「やっぱイケメンだよなー、タイフーン先生」
「確かに」
「あ、そうか。おれもそういう風の男を目指せばいいのか。想像できるぜ。爽やかな風を起こす、イケメン男子生徒ゲイル」
「……ゲイルは今のキャラのままでいいだろ」
「え、やっぱり?」
からかうような顔で俺を見てくる。
さっきのは冗談だったか。
だが俺は頷いておいた。
「ゲイルはいいキャラしてる」
「嬉しいもんだなぁ、実は無能じゃない実力者ボーイ」
あだ名が長い。
「じゃあ、今回の剣術実技試験、トップ3の発表だ」
タイフーン先生が続けた。
少し緩んでいた闘技場内の空気も、このひとことで急に引き締まる。
ブレイズの目の中では炎が静かに燃えていた。その視線の先は俺だ。
だが……どう考えても今回のブレイズはトップ3に入ってないだろ。
「第3位の生徒は……ヴィーナス・エレガント! おめでとう! 美しい戦いだった!」
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