プロローグ

2/5
107人が本棚に入れています
本棚に追加
/146ページ
 森の中で迎えた何度目かの夜、俺は降り頻る爆弾の雨の中を一心不乱に駆け抜けていた。爆音と閃光に吹き飛ぶ地、硝煙の匂いに迫り来る戦火、どれもこれも俺の心臓を横殴りにする。それと……、血の匂い。自然の匂いなんてのは分かったもんじゃない。  これは死の匂いだと思った。  五年前、国を守るためにイギリス軍への入隊を志願したが、現実はあまりにも酷過ぎた。  現在、敵である国も分からない。指令を出した人間は、いつも不明。分からないことだらけでも、俺は戦わなければならないのだ。これは俺が軍に入隊した時から変わらない。  だが、ただ一つ、分かることがある。今のイギリス軍は恐ろしくも壊滅状態であるということだ。  自分を犠牲にして敵を仕留めよ、という時点は遠に過ぎた。つまり、一時退避せよってことだ。無駄死にしている場合じゃないだろう? まあ、死んだ奴らの方が多いが……。  地に転がる敵だか味方だかも分からない死体の横を走り抜けながら考える。島の真ん中まで走ればデカイ川がある。その川を渡り切るか、その川の中に一旦身を潜めるか。  いや、考えている場合ではない。それは川岸に着いてから考えよう。 「……っ!」  戦いの前線から自軍のキャンプまで戻った時だった。背後から飛んできたグレネードが食料庫にしていたテントに着弾し、爆発、大きく燃え盛った。瞬間、離れていても熱気と爆音に襲われる。 「嘘……だろ? ああ! くそっ!」  そのテントは俺から離れた場所にあったが、俺は自らその場に駆け寄らざるを得なくなった。  まさか、ここに居るとは思わなかったのだ。戻って来ているとは思わなかった。奇跡であり、奇跡ではない。こんな皮肉があって堪るか。  ──何ヶ月も前に奪われたはずだった……。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!