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罰として、その日の晩飯は冷めた塩にぎりのみとなった。
痛む頭に濡れた手拭いを乗せ、薄暗い土間でそれを食んでいると父の声がした。
恐る恐る戸を開けて居間を覗き込むと、そこでは先程の娘が父から頭を下げられていた。
「馬鹿息子が世話を掛けたね。どうか着物の弁償をさせて欲しい」
そう告げながら父は店の商品を差し出し、娘は慌てふためいた様子で頭を下げた。
「そんな、お気持ちだけで十分ですから…!寧ろ、一晩泊めて頂けますこと心より感謝致します。皆様にはお忙しい中ですのに、とんだお手数をお掛けしてしまい申し訳ありません」
自分とさして変わらない年頃だと言うのに娘は随分と言葉遣いが丁寧だった。
物腰の低さに加え、所作が洗練されており、一目で育ちの良さが分かった。
「良作から聞いたが、奉公先を探しているそうだね?」
番頭の名を出しつつ父は顎を撫でた。
あれは働き手として興味を示している仕草だ。
「はい。恥ずかしながら、これまで山奥で暮らしておりました故、世間を知らないもので…。差し支えなければ、この辺りで女中奉公を募っている所をご存知であれば、お教え頂けないでしょうか?」
娘は尚も低姿勢で訊ねる。
案の定、父はニコリと微笑んだ。
「歳は十五と言ったね?なら、ウチで働きなさい。働きぶり次第では銭を弾もう」
そんな誘い文句を断る人間はまず居ない。
当然のように娘は喜々と了承の返事を返した。
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