リンという娘

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「あらあら、雪丸付いて来ちゃったの?」  洗濯物を取り込んていた先輩女中はリンの後ろを懸命に追い駆ける雪丸に苦笑い。  番犬として店の方に繋いでいた筈なのに、いつの間にか縄を外して、またも脱走である。 「何だか懐かれてしまって…」  困り顔でリンは雪丸を撫で、先輩女中に続くように乾いた襦袢や手拭いを屋敷の中へ。  そんな折だった。  何かに気付いた雪丸が泥足のまま屋敷の中へと駆け込み、リンも女中も大慌て。  全力で追い駆け、やっとの思いで追い詰めた先は女中達の私室を兼ねた寝床だった。 「あーあー、廊下拭き直しだわ」 「手拭いと桶持ってくるわ…」  何かを訴えるように吠え立てる雪丸を捕獲しつつ、リンも女中もがっくりと肩を落とす。  至る所、見事に足跡だらけだ。 「雪丸、駄目じゃない…」  叱りつつ鳴き喚く雪丸を抱えたリンだが、不意に異変に気付いた。  部屋の隅、私物を入れている篭が空いている。  朝方、確かに蓋をした筈―――。  まさかと思い、慌てて中を確認した彼女は絶句した。 「そんな!どうして…!」  途端に慌てふためく彼女に、女中達は何事かと目を向ける。  リンは涙目で篭の中をひっくり返し、見当たらない大切な物を捜し回った。 「リン、どうしたんだい?」  様子の可怪しい彼女に、女中達はどうしたのかと近寄る。  リンは縋るように先輩の手を取るや大粒の涙を零しながら叫んだ。 「何処にも無いんです!雪華様の御着物が…!大切な物なのに!」  悲鳴にも似た涙の理由に女中達は目を剥いた。
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