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償い奉公
それからの慎太郎は憑き物が落ちたように振る舞いを改め、率先して店に立っては己の役目に向き合った。
仕事の合間には女中に代わって未だ目覚めぬリンの世話に明け暮れ、夜も付きっきりで看病に勤しんだ。
「…リン、すまなかった」
火傷による熱で魘されるリンを介抱しながら慎太郎は、詫びの言葉を漏らした。
早い回復を祈って神仏にも手を合わせたが、思うように回復の兆しは見られなかった。
(神様仏様、どうかリンを助けてください。全ては私の業です。どうか、どうか…!)
リンが寝込み始めて五日目の真夜中、慎太郎は祈りながらリンの手を握った。
今更ながら彼女の手が酷く荒れていることに気付き、己の愚かさを更に痛感した。
休むこと無く働き続け、それを楽しんでいた彼女の尊さに胸が苦しくなった。
「……嫌に冷えるな…」
不意に頬を撫でた冷気に気付き、リンの体が冷えぬようにと隣に敷いた己の掛け布団を被せてやった。
その枕元には女中等に習って繕った燃やしてしまった着物が置かれている。
彼女が目覚めた時、すぐに目に入るようにとの心遣いだった。
…クーン
心配するような鳴き声が傍らから聞こえ、目を向けてみれば、またも雪丸が縄から抜け出して来ていた。
仕方のない奴だと溜息を零しつつ、傍らに寄ってきた垂れ耳を撫でる。
その刹那だった。
リンに視線を戻した拍子、その頬に鼻先を寄せる白銀の姿が見えた。
驚いて顔を上げ、慎太郎は目を剥いた。
リンに寄り添うように神々しい大きな白狐が九つの尾を揺らしている。
「へっ…?」
思わず情けない声を漏らした。
白狐は慈しむようにリンの額を舐めると、厳かに顔を上げた。
『これは妾の愛娘じゃ。くれぐれも頼む』
仄かに微笑むように白狐は告げ、途端にその姿が闇に溶けた。
呆気に取られながらも再びリンへと視線を戻せば、不思議とその顔色は良くなっていて、試しに手を充てがってみれば熱がすっかり下がっていた。
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