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翌朝、リンは目を覚ました。
五日も目を覚まさなかったとは思えぬ程にその顔色は健やかで、更には火傷の傷も綺麗に消え失せていた。
「ありゃあ、お狐様の護りかねぇ…」
帳簿を付けながら良作が零したボヤキに、算盤を弾いていた慎太郎は思わず顔を顰めた。
昨晩の白狐の事は何となく言ってはいけない気がして、皆には話さなかったのだが―――。
「嗚呼、そうか。慎太郎様は知らないんでしたね…」
思い出したように良作は呟き、慎太郎を見据えて困ったように笑みを零した。
「実を言うとね、リンは九尾のお狐様に育てられたそうなんですよ」
そんな言葉を皮切りに彼が教えてくれたのは、リンが屋敷で働くに当たって密かに教えてくれたという過去だった。
それは今より八年前――、貧しい村に生まれたリンは強欲な村長の差し金で女衒に売られ、遊郭へと連れ込まれる道中で命辛々逃げ出し、山寺に住み着いていた雪華という九尾の白狐に拾われたそうだ。
雪華は人にも化ける土地神で、長年リンの様な不幸な子供達を助け出しては独り立ちできるようになるまで世話をして読書きなども教えていたという。
それから月日が経って、リンが巣立ちを控えたある日―――、村長に唆され、雪華を退治せんと瑞雲という名の行脚僧が現れた。
初めこそ雪華を仇なす者として警戒したリンであったが、瑞雲は雪華が善い狐であると知るや子供達を慈しみ、父のように接してくれたそうだ。
しかし、瑞雲が寺を立たんとした直前、村長が村人を引き連れて寺を襲った。
子供達を守らんと雪華は身を賭して立ち向かい―――。
「どうにか村人を退けたもののお狐様は力尽き、その意志を継いだ瑞雲殿が寺に留まってリン達の面倒を見たそうです。しかし、子供達を養うには瑞雲殿だけでは生活が苦しく…」
「それでリンは奉公に出たと?」
そう訊ねた慎太郎に良作はコクリと頷いた。
「元より寺を立つ身だった故、己が奉公に出れば妹達に行き渡る米も増え、瑞雲殿の負担も減るからと…」
そこまで告げた良作は感極まって涙を浮かべた。
鼻を啜るその傍ら、慎太郎は己の拳を強く握った。
――そんな健気な娘に、己は何と愚かなことをしてしまったのか…。
今更ながら自身の業の重さを思い知り、どうしようもない後悔が襲い掛かった。
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